東海大学と北海道大学の研究グループは,生体組織の乾燥とブレを防ぎつつ,高解像度でのイメージングを実現する,新しい発想の観察試料作成技術「撥水性超薄膜ラッピング法」を確立した(ニュースリリース)。
イメージングにおける観察試料の作成にあたっては,観察したい生体組織をガラス基板に乗せたあと,乾燥を防ぐために緩衝液を滴下し,カバーガラスで覆う手法,もしくはアガロースなどのヒドロゲルで包埋する手法が用いられている。しかし,前者の手法では,生体組織が破壊されたり,観察中に顕微鏡のステージを動かす際の慣性の力によって生体組織がブレたりする。
また,後者ではガラス基板と生体組織の間にゲルが入り込み,高解像度の画像が取得できないなどの問題があり,依然として研究者は独自の経験やノウハウによる観察を行なっている。さらに,後者の場合,生体組織を透明化したとしても,ヒドロゲルの添加によってもとの不透明な状態に戻ってしまうという問題もある。
研究グループはこれまで,厚みを100㎚程度に制御した「高分子超薄膜」を研究対象とし,反応性官能基や接着剤を使用することなくガラスやプラスチック,生体組織などさまざまな表面に吸着する特性を見いだしてきた。研究では,こうした超薄膜の高接着性を利用して生体組織をラッピングしてみた。
研究では,撥水性高分子として水とほぼ同じ屈折率を持つ,旭硝子製のフッ素樹脂を材料とする撥水性超薄膜を開発し,保水・保定を実現する生体組織用の高解像度イメージングツールに応用した。さらに,透明化した生体組織を長時間イメージングできるよう,従来法では達成できないヒドロゲルとの併用法を新規に開発した。
作成した撥水性超薄膜の水接触角は111±1°と計測され,その表面は撥水性であることを確認した。さらに,超薄膜の膜厚はスピンコート時の材料溶液の濃度に比例し,膜厚は約18~687㎚の間で任意に制御できることも確認した。
また,超薄膜の接着強度を超薄膜スクラッチ試験機にて測定したところ,膜厚150㎚以下に制御すると接着強度が向上することを実証した。さらに,分光光度計にて超薄膜の透過率を測定したところ,紫外・可視領域(200~800㎚)において光の吸収はみられず,高い透明性が裏付けられた。
生体組織に見立てたアルギン酸からなるヒドロゲルをモデルとして用い,超薄膜の保水効果を検証したところ,その撥水性によりゲルの乾燥を防止するラッピングシートとして機能することを実証した。これは,撥水性が保水効果に転換したことを意味する。