東京工業大学と山梨大学らの研究グループは,銅と白金,金の3種類の金属を精密に制御した合金ナノ粒子の開発に成功した(ニュースリリース)。
近年,有害な有機溶媒を使用せず,空気中の酸素を用いたクリーンな触媒的酸化反応の研究が盛んに行なわれている。なかでも,貴金属のナノ粒子が多孔質のカーボン材料や金属酸化物へ固定された担持触媒の研究は広く行なわれており,有望な触媒系として期待されている。
このような不均一系触媒の反応性を決める上で重要な要素は,金属ナノ粒子の形状やサイズ(粒子径),金属組成であり,新たな高機能触媒の開発に向けた制御手法が求められている。特に粒子径が2nm以下の粒子では,触媒の粒子径を小さくしていくと,比表面積が大きくなるだけでなく金属表面の電子状態も大きく変化し,それに伴って反応性が大きく変わることが分かっている。
しかし,これまで2nm以下の金属ナノ粒子の粒子径,組成の両方を制御できる合成法はなかった。今回の研究は,これまで触媒機能が明らかにされてこなかった粒子径が1nmの合金触媒の合成とその反応性の解明を目的として行ない,空気中の酸素を用いた炭化水素の酸化反応の触媒活性を明らかにするとともに,銅と他の貴金属の界面での特異的な触媒活性の向上効果を発見した。
研究グループは,樹状型の規則構造を持つ高分子であるデンドリマーを利用して,複数の金属からなる,1nm程度の微小な合金ナノ粒子の合成法を開発した。このデンドリマーを用いたナノ粒子合成法では,さまざまな金属の組み合わせで,一般的なナノ粒子の水熱合成などと比較してより粒径の小さく,個々の粒子の合金組成が均一な合金ナノ粒子を合成できる。
今回,空気中の酸素分子を酸化剤として用いた際の,常圧下での炭化水素の酸化反応における触媒活性を評価した。その結果,銅原子と他の貴金属からなる合金ナノ粒子が,有機化合物の酸化反応に用いられる市販の白金担持カーボン触媒と比較すると24倍もの活性を有することを見いだした。
また,この触媒は,少量(触媒量)の有機ヒドロペルオキシドを加えることで,常温常圧下で炭化水素のアルデヒドやケトンへの酸化反応を進行させることが分かった。さらに,異なる金属組成による活性の変化や,生成物と中間体であるケトンと有機ヒドロペルオキシドの組成比などを調べることで,金属ナノ粒子の合金化による触媒反応の促進過程を観察することができた。
開発した合金ナノ粒子の合成法は,これまで困難であった1nm前後の合金ナノ粒子の金属組成を適切に制御して合成することができる。
また,この手法はデンドリマー分子に配位させることができる他の金属種へと応用可能で一般性が高い。そのため,今まで触媒機能が不明であった微小なサイズの合金ナノ粒子の反応性を解明する手法としても有用。
銅と他の貴金属界面での触媒活性の向上効果についても炭化水素の酸化反応だけでなく,様々な有機化合物の酸化的変換反応における触媒活性を検討してみる必要があり,より多彩な反応への応用が期待されるとしている。