産業技術総合研究所(産総研)は,仏パリ・サクレー大学,米国立標準研究所(NIST)と共同で,スピントルク発振素子(STO)を用いた人工ニューロンを考案し,その原理を実証した(ニュースリリース)。
ヒトの脳でのニューロンとシナプスによる情報処理を模倣したニューロモロフィック・コンピューティングは,脳が得意とする認識や学習といった膨大で曖昧・不完全な情報の処理を低消費電力で高速に実行できると期待されている。
今回,ナノメートルサイズのスピントルク発振素子を人工ニューロンとして用いたニューロモロフィック回路音声認識システムを開発した。スピントルク発振素子は,直流電流を流すとスピンの共鳴歳差運動が励起されて(強磁性共鳴),交流電圧が発生する自励発振素子。この発振素子の出力電圧は直流電流の大きさに依存するため,直流電流値を変化させることで出力の交流電圧値を変化させることができる。
このとき,交流電圧の振幅は入力の変化に瞬間的に追従するのではなく,緩和時間と呼ばれる時間遅れを伴って徐々に変化する。また,交流電圧の振幅は,電流値に比例しない,非線形な振る舞いをする。この緩和時間と非線形性という特徴を,ニューロモロフィックシステムで必要とされるshort term memory(短時間記憶)や信号の非線形性として活用できると考え,スピントルク発振素子を用いた高効率・超小型の人工ニューロンを考案した。
ナノメートルサイズの人工ニューロンを用いた音声認識は世界初で,このシステムは人間が発声した”0″~”9″の言葉を99.6 %の正答率で認識できた。
これはより大型で複雑な光学系リザーバーコンピューターと同等の正答率。今回開発した人工ニューロンによって,ニューロモロフィック・コンピューティングや人工知能などの研究開発が促進されると期待されるとしている。