奈良先端科学技術大学院大学(NAIST),理化学研究所,伊Istituto Officina dei Materiali CNR Laboratorio(物質材料国立研究所),英Diamond Light Source(ダイヤモンド放射光施設)らの国際共同研究グループは,放射光施設Diamond(英)と大型放射光施設SPring-8(日)の世界最高性能のX線光電子分光実験と理論解析を組み合わせることで,スピントロニクス材料でデバイスを作る際に妨げとなる表面不活性層の深さ分布を,定量的に評価することに成功した(ニュースリリース)。
スピントロニクスデバイス材料においては,表面における電子の移動度と磁性が内部より低く活性が低いことが知られているが,これまでの研究では極表面しか検出できなかったため,その不活性な表面層がどれだけ深くまで存在してデバイス特性に影響しているかという情報は得られていなかった。
国際共同研究グループは,硬X線光電子分光(HAXPES)と理論解析を組み合わせ,2つの代表的なスピントロニクス材料,希薄磁性半導体(Ga,Mn)Asおよびペロブスカイト酸化物La1-xSrxMnO3の特異な表面状態を詳細に調べた。今回の研究では,硬X線を用いることによって,デバイス材料の表面だけではなく,内部の電子の性質も同時に調べることができた。
さらに,用いるX線のエネルギーを段階的に変化させることで測定可能な深さを調整し,表面状態の厚さおよび境界の急峻さを定量的に測定した。その結果,以下のことが明らかになった。
1.スピントロニクスデバイス材料内部の電導度が高く金属的かつ強磁性的領域から,表面の電導度の低い半導体的かつ非磁性的な不活性領域への変化の様子を,直接的かつ定量的に測定することに成功した。
2.内部と異なる表面層の厚さは,これまで考えられてきた0.4nmよりも非常に大きく,(Ga,Mn)Asでは約1nmと数倍であり,La1-xSrxMnO3では約10倍の4nmもあることが明らかとなった。
この研究で明らかになった表面不活性層の厚さは,数十nmサイズのデバイスで用いられる電導層の厚さとほぼ等しく,デバイス開発に深刻な影響を与えていることを示している。
今回の研究により,デバイスに用いられる表面の状態とその深さ分布を非破壊で定量的に初めて測定できるようになったため,スピントロニクス材料の開発研究が大幅に促進されることが期待されるとしている。