物質・材料研究機構(NIMS)は,過酷環境下に強いダイヤモンド集積回路を開発するための第一歩として,2種類の動作モードを持つ金属—酸化物—半導体(MOS)電界効果トランジスタ(FET)を組み合わせたダイヤモンド論理回路チップの開発に世界で初めて成功した(ニュースリリース)。
ダイヤモンドは,高いキャリア移動度,大きな破壊電界および大きな熱伝導率を持つことから,高温,高出力,および高周波で安定に動作する電流スイッチおよび集積回路への応用が期待されている。
しかしながら,これまでダイヤモンドMOSFETのしきい値電圧の正負を制御することが難しく,2種の動作モードであるデプレッションモード(Dモード)およびエンハンスメントモード(Eモード)のMOSFETをそれぞれ同一チップ上に作製することは困難だった。
これまでに研究グループが開発した独自のしきい値制御プロセス法を利用することで,これら2種類のMOSFETを同一チップ上に作製できたことが論理回路チップ開発の成功の鍵となった。
研究グループは,2012年に光電子分光法により,種々酸化物と水素終端ダイヤモンド界面の電子構造を解明。2013年には極めて低い漏れ電流密度を持つダイヤモンドMOSキャパシタの開発に成功するとともに,困難であったEモード動作する水素終端ダイヤモンドMOSFETの開発に成功した。
続いて2014年にダイヤモンドMOSFETと抵抗器の組合せでインバータ論理回路チップを試作し,更に2015年にはダイヤモンドMOSFETのDモードとEモードの制御プロセス法を開発するとともにそのメカニズムを明らかにした。
今回の研究成果はこれらの一連の研究成果が基盤となって達成されたもの。ダイヤモンド論理回路チップは,高温,放射線や宇宙線下の過酷環境条件においても安定に動作するデジタル回路等の集積回路への応用が期待されている。