東大,原子1個の内部電場の直接観察に成功

東京大学の研究グループは,0.05㎚以下の分解能を有する最先端走査型透過電子顕微鏡(STEM)法と独自開発の多分割型検出器を用いることにより,金原子1個の内部に分布する電場を直接観察することに世界で初めて成功した(ニュースリリース)。

電子顕微鏡法の一種である走査型透過電子顕微鏡法(STEM)は,薄膜試料上で電子プローブを走査しながら,その各点からの透過散乱した電子を検出器で検出して拡大像を観察する電子顕微鏡法。STEM法では,電子プローブの大きさによってその分解能が決まるが,現在の最先端レンズ技術によって0.05㎚以下の分解能が達成されている。

また,電子プローブが原子によって散乱された信号を検出するため,原子そのものを可視化することが出来る。しかし,さらにその先の原子内部の構造(原子核とそれを取り巻く電子雲)を電子顕微鏡で直接観察することは極めて困難であると考えられてきた。

今回,研究グループは,0.05㎚以下の分解能を有する最先端STEMと独自開発の多分割型検出器を用いることにより,金原子1個の内部に分布する電場を可視化することに世界で初めて成功した。原子内部のプラスの電荷をもつ原子核とマイナスの電荷をもつ電子雲との間の電場によって影響をうけた電子線の進行方向の変化(角度や位置)を分割型検出器で検出することにより,原子内部にどのように電場が分布しているのかを直接観察することが出来る。

この方法により,原子内部のプラスの原子核からマイナスの電子雲に向かって電場が湧き出している様子を捉えることに成功した。これは,これまで原子の観察に留まっていた電子顕微鏡を,原子の内部構造までをも直接観察することのできる顕微鏡へと大きく進化させる画期的な成果。

今回の研究は,日本の電子顕微鏡技術が世界一の水準にあることを示すだけでなく,さまざまな分野におけるナノテクノロジー研究開発を格段に向上させる契機となることが期待される。また,原子内部の電場を直接観察できるということは,原理的には原子内部における電荷の分布状態を直接観察できることを意味しており,今後のさらなる進展により原子同士を繋ぐ結合の直接観察にも繋がる大きな一歩であるとしている。

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