府大,新光源に寄与する同期現象の理論を構築

大阪府立大学の研究グループは,「同期現象」研究のための新たな理論を開発した(ニュースリリース)。これは,分子発光や量子計算の大幅な効率化に結びつく成果。

2つの振り子の運動が互いに影響を与え合うことで,そのリズムを揃えるように,単純な個々の要素が互いにリズムを合わせるこ とで,全体としての機能を発現することを同期現象と呼ぶ。この現象は工学的にも広く応用されており,コンピューターのハードウェアはクロック同期により動作している。超伝導素子や超高周波回路などの先端エンジニアリングにおいても同期現象は重要な役割を果たしている。

近年,多数の分子やナノスケールの物質構造(ナノ物質)を有機的に組み合わせることで,様々な機能を最大化または創出するという試みが盛んになっているが,このような試みにおいてもこの期現象は大きな役割を持つことが期待されている。特定の機能を増強・創出する ためには,ナノ物質の配置を含めた量子系全体をあらかじめデザインする必要がある。しかし,量子系全体の具体的な幾何学的構造や材料を想定して,同期現象を検証する理論的手法はこれまで 確立されていなかった。

今回,同期現象の発現に不可欠な媒体(振り子なら板の振動に相当する)の影響を取り入れた理論的手法を確立した。この媒体による仲介者は一般に,ナノ物質間を伝搬する間に周囲の環境に依存して散乱・増強あるいは減衰をする。そして,その性質は同期現象の成否に大きな影響をもたらす。

研究では,媒体の性質をあらわに理論に組み込み,自由にデザインさ れた多体系の同期現象を理論的に調べることを可能にし,具体的な同期現象のデザインの一例として,半径数μmの誘電体(ポリスチレン)球表面に分散した蛍光分子の発光ダイナミクスについて数値的な模擬実験を行なった。

その結果,真空中では到底同期に達しないような分子数であっても,球によりデザインされた仲介者(ここではウィスパリングギャラリーモードと呼ばれる球面の電場振動)を介して大きな同期発光が発現することを示した。同期を起こしていないときに比べ,この指向性のある同期発光は最大強度にして約100倍,発光速度にして約200倍に増加しており,新しいパルス光源として期待される。

この理論は,特殊な状況に当てはめれば同期現象の基本モデルとして著名な「蔵本モデル」を再現する一方で,さらに広範な同期の媒体を具体的に扱えるというメリットがある。例えばビット間の同期現象を利用して量子計算の高効率化を実現でき,また結晶中において,磁化秩序や格子振動を媒体とした同期現象を発現することが出来れば,新しいナノエレクトロニクス素子開発に向けた大きな指針になる。

この成果は,多彩な量子多体系の同期現象をデザインすることで,IoT(Internet of Things)社会の要請に応えるナノ量子工学の構築に結びついていくとしている。

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