国立極地研究所(NIPR),茨城工業高等専門学校らの研究グループは,宇宙線の長期にわたる変動を定量的に再現するモデルを開発し,今後2024年までの期間における,飛行機の飛行する高度(航空機高度)での宇宙線による被ばく量を予測した(ニュースリリース)。
現在,太陽活動レベルは下がる傾向にある。太陽活動の弱い時期には,宇宙線が地球に到達しやすくなり,国際宇宙ステーションや航空機高度での被ばく量が増加する。
そのため,宇宙線強度や被ばく量の今後の変化を正確に予測することが求められるが,これまでの予測では,太陽の黒点数などをもとにした経験的な手法が用いられており,予測値と実際の測定値との大きな差が指摘されていた。
そこで研究グループは,宇宙線の基本的な物理を考慮した宇宙線伝播モデルを新たに開発した。このモデルを用いて1980年~2015年の宇宙線強度を再現したところ,測定値とよく一致した。
さらに,2016年~2024年の航空機高度での被ばく線量を予測したところ,この期間の太陽活動極小期前後5年間における年間被ばく量の平均値は,前回の極小期(2009年)前後5年間の平均値と比較して約19%増大するという結果が得られた。
この値は航空機乗務員の健康に悪影響を与えるほどの増加量ではないが,年間被ばく線量の上限値付近まで働く人々は,今後の太陽活動の低下に注意しなければいけないことを示しているという。