千葉大学の研究グループは,光を当てることで「らせん構造」がほどける人工のナノ線維の開発に成功した(ニュースリリース)。
微小線維とは,細胞内に存在し,細胞形状の維持,形の制御,さらには細胞内での物質移動を担っている線維状ナノ構造体。主にアクチンと呼ばれる粒子状のタンパク質がユニットとなり,らせん状に結合することで形成される。生体系に見られるような精緻な構造を持つ線維状の微小材料を人工分子で構築することは世界中で活発に研究されている。人工の材料を使い様々な機能を持った分子をユニットとして用いることで,生体系にはない独自の機能を実現することができる。
研究チームは,今回世界で初めて光でらせん構造がほどける人工のナノ線維(太さ10㎚)の開発に成功した。線維の見かけの長さ(末端から末端までの直線距離)は2㎛程度から10㎛まで大きく変化することもわかった。この新しいナノ線維は,光で折れ曲がる性質を持ったアゾベンゼン分子が結合することで形成される。
研究グループは,アゾベンゼン分子を水素結合によって6個集め,“ロゼット”と呼ばれる根生葉の形にすると,ロゼットが次々と連なり,らせん状のナノ線維(超分子ポリマーとも呼ぶ)を形成することを発見した。ロゼットの「葉」が全て開いている時は,ロゼットは一定の湾曲率を保ちながら結合してゆき,らせん状の線維を形成する。光をあてるとアゾベンゼン分子が異性化するためにロゼットの「葉」が部分的に折れ曲がり,その結果,湾曲性が損なわれる。
この局所的な構造変化がらせん構造全体で起こるため,らせん構造がほどけて伸びきった線維へと構造変化する。このようなナノ線維の構造の変化は,高エネルギー加速器研究機構のX線小角散乱測定装置などによる計測により明らかになった。
近年,様々な刺激を用いて分子の形状を制御することが可能になってきている。しかし,分子より少し大きなサイズ,すなわちナノメートルスケールの物体の形状を外部刺激によって変化させることは未だ困難な課題であり,身近な現象である光の照射によってこれを可能にするという今回の成果は画期的だという。
今後は,らせん構造内に内包された薬剤などを患部へ任意のタイミングで放出するドラッグデリバリーシステムや,コンパクトに折りたたまれたらせん構造から網目のような線維ネットワークを一気に広げて物質を捕捉するナノシステムなど,生体機能を高度なレベルで模倣したスマートナノマテリアルへの発展が期待できるとしている。