東京理科大学と電気通信大学,東京理科大学の研究グループは,光誘起力によって室温の水中の1nmのサイズの分子を集合させ,平衡状態では存在しない会合数や分子配置の分子会合体を生成した(ニュースリリース)。
しかもこの応答は,室温の激しい分子の熱運動の大きさに対して,知られている公式に従って計算できる光の圧力による効果から予想されるよりも4桁も大きな生成効率で起こっていることがわかった。この観測は,分子の会合状態の変化を吸収スペクトルの変化で追跡する方法で初めて可能になった。
室温の溶液中の10nm以下のサイズの分子やたんぱく質を光誘起力(光の輻射圧あるいは運動量変化の反作用による力)で安定にトラップしたり,自在にコントロールしたりすることは,粒子のサイズ(分極率体積)が小さく光誘起力による位置エネルギーが粒子の熱運動のエネルギーより何桁も小さいために困難で,実現していない。
従来,5-10nm程度のたんぱく質の結晶化や,1nm程度の分子の会合を,光照射で促進させることは実現しているが,これは過飽和溶液という不安定な非平衡状態から安定な熱平衡状態である結晶や会合体に変化させる条件で行なわれていて,熱平衡で存在しない状態を生成しているわけではない。また,結晶化や会合体形成の確認は発光・散乱イメージや発光スペクトルで行なわれていて,実際に分子集合体がどのような構造を持っているのかという点やその集合体の大きさ等の定量化には情報が不十分だった。
研究グループは,ポルフィリン系分子であるTPPSについて,水溶液中の熱平衡状態が単量体分子という条件で,単量体,会合体共鳴エネルギーよりも低エネルギー側の532nmのレーザー光照射により会合体が生成することを,会合体が現れるエネルギー領域の吸収増加で観測した。分子の重心が固定されているポリマー膜中分散試料ではそのような変化は起こらなかったことから,分光学的に実証されている。
観測された会合体の吸収スペクトル増加は,平衡状態では観測されたことがない,会合数が2,3,4個の会合体や,会合体内の分子配置が不安定な配置の会合体が生成したことを示すもので,安定な会合体形成前の過渡的な会合状態を捉えた可能性がある。
この実験では分子への勾配力による位置エネルギーは熱運動のエネルギーと比較して7桁も小さいのに,10-3の吸光度変化を観測していて,これは予想よりも10000 倍も高効率な会合体生成が起こっていることを示している。
この研究成果は,世界で初めて,光誘起力が平衡状態に向けて結晶化を加速するだけの役割でなく,平衡状態で存在できない結晶状態を作成することに使えることを実証したもの。この観測方法を使えば,室温の溶媒中で未知の分子やイオンの集合状態を観測することにより,結晶化のメカニズムの解明や新しい分子会合状態の作成に貢献できるとしている。