高輝度光科学研究センター(JASRI)は,SPring-8の強力なX線と高速X線回折像記録法の組み合わせにより,昆虫の速い羽ばたきの毎回のストロークを開始させる速い分子現象を精密に捉えることに成功した(ニュースリリース)。
昆虫は小さいほど羽ばたきの周波数が高く,蚊の場合は1秒間に500回も羽ばたく。このような速い羽ばたきは,昆虫の飛翔筋(羽を動かす筋肉)がもつ「伸張による活性化」という性質による。これは,飛翔筋が外から引っ張られると,即座に大きな力を出して引っ張り返す性質のこと。
今回,SPring-8の強力なX線を用い,飛翔筋が引っ張られたときに最初に起こる速い分子現象を精密に捉えることに成功した。この分子現象が,生きて羽ばたいているハチの飛翔筋内で起こっていることは既に明らかにしていた。
今回はハチから取り出した筋細胞を1ミリ秒の間に急速に伸張させることにより,その分子現象がほかの細胞内の構造変化より遥かに早く,伸張とほぼ同時に起こることを明らかにした。これは上記の分子現象が,以前発表で予想したとおり,伸張による活性化の引き金であるという考えを強く裏付けるもの。
この成果は,他の生物では不可能な昆虫の高速羽ばたきの仕組みを理解するうえで極めて重要なステップであると同時に,昆虫に類似した伸張による活性化の機構を利用しているといわれるヒトの心筋の働きなど,筋肉一般の収縮機構の理解に大きく役立つものだとしている。