理化学研究所(理研)は,100兆分の1秒の光パルスを用いた独自の計測手法により,紅色光合成細菌が持つタンパク質である青色光センサーが刺激に応答する瞬間の“最初の動き”を分子レベルで観測することに成功した(ニュースリリース)。
生物は外界からの光や熱などの刺激をタンパク質で構成されるさまざまなセンサーで検知し,それを生命活動の維持に役立てている。
しかし巨大分子であるタンパク質において,その検知の仕組み,特に外的刺激に応答する瞬間の最初の動きを分子レベルで捉えるためには,分子の詳細な構造を区別し,かつ1兆分の1秒以内で起こる変化を追跡できる優れた観測手段が必要となる。そのため,その解明は困難であると考えられてきた。
今回,研究グループは紅色光合成細菌の忌避走光性という機能を担う青色光センサーである光受容タンパク質「イエロープロテイン(PYP)」に着目し,光照射直後の瞬間の分子構造とその後の変化を「フェムト秒時間分解インパルシブ・ラマン分光法」と呼ばれる独自の最先端分光計測法を用いて調べた。
この方法では,PYPに青色光を照射して変化を開始させた後に,10フェムト秒の時間幅の光パルスで分子を瞬間的に揺さぶり,その揺れる様子から分子の形の変化の一部始終を“ストロボ写真”を撮るように観測した。
その結果,青色光の照射からわずか10兆分の1秒(0.1ピコ秒)で光を吸収する部位の近くにある特定の水素結合が弱まり,それが歪んだ形状の分子を生じさせタンパク質の機能発現につながることを見いだした。
これはタンパク質が機能を発揮し始める精巧な仕組みをリアルタイムで追跡した画期的な成果。今後,この観測法を利用することにより,さまざまな光応答性タンパク質が機能する詳細な仕組みが明らかになるだけでなく,より優れた機能を持つ新しいタンパク質の設計・創製につながるとしている。