東レは,半導体型単層カーボンナノチューブ(CNT)において,塗布型半導体として世界最高となる従来比2倍の移動度81cm2/Vsを達成した(ニュースリリース)。
この成果により,IoT時代において必須ともいえる通信距離の長いICタグであるUHF帯RFID等の高機能デバイスを,塗布技術により安価に製造できる可能性を世界で初めて示した。
単層CNTは,半導体として高いポテンシャルを有しており,ディスプレー用の薄膜トランジスタ(TFT),ICタグ,センサー等への応用を目指した開発が進められている。この単層CNTは,半導体型が3分の2,金属型が3分の1の混合物として合成されるが,近年は半導体型のCNTをより高純度で取り出す技術開発が進んでいる。
しかし,純度が高いCNTほど凝集する力が強く,均一な分散には外部から強いエネルギーを加える必要があり,CNTがダメージを受けてしまうという問題があった。
同社はこれまで,半導体ポリマーを単層CNTの表面に形成することで,導電性を阻害することなく単層CNTの凝集を抑制する技術に取り組んできた。今回は,この技術をさらに深化させ,半導体純度の高い単層CNTにより強く相互作用する新しい半導体ポリマーを見出し,より小さいエネルギーで単層CNTを均一分散できることを見出した。
これにより,塗布法で作製したTFTの移動度を大幅に向上させることができ,現在ディスプレー等で用いられているアモルファスシリコンの約80倍となる移動度81cm2/Vsを達成した。この結果,TFT素子としての基本性能はある程度見通しが立った。
さらに,この技術を用いることで,フィルム等の汎用素材上に,ウェットコーティングによる塗布で半導体素子を形成する事が可能となるため,高コストを理由に普及が進んでいない半導体応用製品への展開に繋がる。
同社はこの塗布型の特徴である低コストを生かして,今後,レジの自動化などの小売・流通や医療・介護など様々な場面での使用が期待されるディスポーザブルなICやセンサーなどへの展開に取り組んでいくという。
具体的には,あらゆる商品に貼り付けられる,低コストRFIDタグや,微量成分が検出可能なバイオセンサーの分野に向けた技術確立を目指していく。