東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構のメンバーも参加する,国際研究チーム H0LiCOW (ホーリー・カウ) は,ハッブル宇宙望遠鏡やハワイのすばる望遠鏡など複数の望遠鏡を用いて強い重力レンズ効果を引き起こしている5つの銀河を観測し,宇宙の膨張率の値であるハッブル定数を従来の方法とは独立に調べた(ニュースリリース)。
その結果,これまで行なわれてきた超新星やセファイド型変光星の観測で得られたハッブル定数の値と極めてよく一致していた。しかし,プランク衛星による宇宙背景放射の観測で得られた宇宙初期の観測に基づくハッブル定数の値とは一致しないという矛盾した結果が得られた。
今回対象としたのは、地球と離れたところにあるクェーサーとの間に位置する大質量の銀河。より遠くのクェーサーからの光は強い重力レンズ効果を引き起こすような大質量銀河の周囲で曲げられる。これにより,背景のクェーサーが複数の像に分かれたりアーク状に引き伸ばされた像が作り出される。
しかし,レンズとなる銀河は完全に球形の歪みを生み出すことはできず,レンズ銀河とクェーサーが完全に一直線に並んではいないために,背景のクェーサーの複数の像からの光は,わずかに異なる距離の経路を辿る。クェーサーの輝きは時間によって変化するので,異なる像が異なる時刻に明滅する様子を見ることができるが,その時間の遅れは光がやってくる経路の長さに依存する。
この遅れは,ハッブル定数の値と直接的に関係しており,ハッブル定数を測る最もシンプルで直接的な方法となる。今回,複数の像の間での時間的遅れを正確に測ることで,高い精度でハッブル定数を確かめることができた。
重力レンズ効果を受けたクェーサーの画像間での光の時間の遅れからハッブル定数を調べるアイディアは50年以上前頃からあった。しかし,そうした測定が可能となったのはほんの最近のことだという。
プランク衛星で確かめられたハッブル定数の値は,現在の標準的な宇宙論モデルから期待される値とよく合っているが,今回のような局所宇宙のさまざまな観測から求めた値とは一致していない。研究グループは,高精度の異なる方法により,現在の我々の宇宙に対する理解を超える新しい物理がこの矛盾から示される可能性があるとしている。
また,次の目標として解析に使う重力レンズの数を増やすことを挙げており,すばる望遠鏡が新しい重力レンズを見つけるのに重要な役割を果たすだろうとしている。