名古屋大学の研究グループは,神奈川科学技術アカデミーとの共同研究で,これまで知られた中で最大の体積収縮量を有する,「温めると縮む」新材料を発見した(ニュースリリース)。
通常,材料は温度が上がると体積が大きくなるが,ごく希に,温度が上がると逆に体積が小さくなることもある。これは「負熱膨張」と呼ばれ,身近には氷が水になると体積が小さくなる例がある。
研究グループは,「層状ペロフスカイト」と呼ばれる構造をもつルテニウム酸化物のセラミックが,酸素含有量を減らすと室温を含む広い温度域で大きな負熱膨張を示すことを発見した。
負熱膨張材料は,材料の熱膨張を抑制・制御できるため,温度による形状変化を極端に嫌う精密光学部品はじめ各種精密機器に利用される他,最近ではファイバー・グレーティングと呼ばれる光フィルターの性能安定化に貢献するなど,様々な分野で活用されている。
しかし,これまで実用の負熱膨張材料は,β-ユークリプタイトなど,ごくわずかな例に限られていた。
今回発見された新材料は,負熱膨張による体積収縮が最大で6.7%に達する。これは,ビスマス-ニッケル酸化物やマンガン-コバルト-ゲルマニウム合金など,最近になって発見された,いわゆる「巨大負熱膨張材料」の最大値3.2%と比べても倍以上大きい。
また,負熱膨張機能が実用化されているセラミックのβ-ユークリプタイトの体積収縮量は1.7%であり,この材料の体積収縮量はその数倍の規模になる。さらに,極低温から室温以上にわたる広い温度域で負熱膨張を示すという著しい特長を持つ。
精密機器以外にも,例えば燃料電池やパワー半導体,熱電変換システムといった先端技術にとっても熱膨張制御は必須とされており,研究グループは今後,広い産業・技術分野で,計測・加工精度の飛躍的向上や性能安定化,機器の長寿命化等に貢献すると予想している。