東北大学の研究グループは,台湾の国立交通大學(NCTU),国立ナノデバイス研究所(NDL)と共同で,独自技術である超低損傷・中性粒子ビーム技術(加工,酸化プロセス)を用いた「高性能サブ10nm・3次元フィン型ゲルマニウムトランジスタ」を世界で初めて作製することに成功した(ニュースリリース)。
半導体産業においては世界的な競争のもと,新材料の導入や微細化研究が盛んに行なわれている。特にMOSトランジスタは半導体産業の最大の牽引車であり,Internet of Thing(IoT)や人工知能(artificial intelligence: AI)において国際競争を勝ち抜くために,その高性能化の研究は極めて重要となる。
集積回路の高性能化には回路の微細化が不可欠だが,今まで,微細化した回路素子からのリーク電流による発熱が大きくなりすぎて「技術世代22㎚」以降の超高集積回路の実現は難しいとされてきた。
この壁を打ち破るため,今回研究グループは,シリコンに比べて損傷が入りやすく加工形状の制御が難しいゲルマニウムの塩素中性粒子ビームによる「高精度無損傷異方性加工によるフィン型チャネル構造の作製」,酸素中性粒子ビームによる「室温異方性酸化によるフィン型チャネル形状制御」と「高品質ゲルマニウム酸化膜の形成」を同時に実現することで,サブ10nm・3次元フィン型ゲルマニウムトランジスタ構造試作を行なった。
このうち,ゲルマニウム加工には塩素中性粒子ビームを用いた。この手法使えば,プラズマからの紫外線照射の完全抑制によりフィン型チャネル側壁への欠陥を1/100以下に抑えられるため,マスク通りの垂直加工が可能となり,寸法制御をすることができる。
こうして作成したトランジスタの電気特性を測定したところ,世界で初めて「サブスレッショルド・スイング (SS) をN型トランジスタで70mV/dec,P型トランジスタで87mV/dec,オンオフ電流比を105以上」を同時に実現することに成功した。
これにより,リーク電流による発熱に起因する技術的限界は乗り越えられ,今後,サブ10nm・3次元フィン型ゲルマニウムMOSトランジスタの開発が大きく前進することが期待されるとしている。すでに,大手装置メーカーと装置化への検
討も進んいるとし,近い将来の実用化に向けてさらに研究を進めていく。