東北大学は双葉電子工業の協力を得て,熱力学的に混ざりにくい窒化アルミニウムインジウム(AlInN)混晶を非極性面にエピタキシャル成長させた薄膜ナノ構造を蛍光表示管(VFD)に搭載することにより,波長210nmに迫る深紫外線(DUV)から緑色までの小型偏光光源を実現した(ニュースリリース)。
研究グループは,本質的には混ざりにくく結晶成長が困難なAlInN混晶を,2014年ノーベル物理学賞の受賞対象となったc面青色LEDとは異なる結晶面である「非極性m面」にエピタキシャル成長させ,そのナノ構造を蛍光表示管(VFD)に実装することによって,面内で直線偏光されたDUV光や,青色,緑色の光を呈する小型光源を実現した。
DUV光を呈する小型固体素子開発の主流は,窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)量子井戸を活性層とするLEDだった。その理由は,AlGaN混晶のバンドギャップエネルギー(Eg)がDUVからUVに渡っており,AlNモル分率を 50%程度にすれば波長約280nmに届くこと,AlGaNの結晶成長が,AlInと比較すると遥かに楽であることがある。
ここで,AlGaNの結晶成長には青色LEDを製造する際に用いられている,有機金属気相エピタキシャル成長(MOVPE)法が用いられている。しかしながら,青色LEDのような高効率化や低コスト化が困難で,民生品としての実用化を阻んでいる。
一方,AlNとInNを混ぜたAlInN混晶もDUVやUV光源用材料として期待できる。しかしながら,AlNとInNのMOVPE 結晶成長に適する温度が1600℃以上と400℃以下で全く異なっており,熱力学的に混ざりにくい「非混和系」となっている。また,格子定数の違いもAlNとGaNの場合より大きく,高品質な結晶の成長が極めて難しい。
今回研究グループは,AlInNをMOVPE成長させる際の装置形状や成長条件を最適化する事により,結晶学的に見て十分な品質をもつ,InNモル分率0~32%程度までのAl1-xInxNの結晶成長を行なう事に成功した。
しかしながら,高AlNモル分率AlGaN混晶の場合と同様にp型結晶を得るのが困難であると予想されるため,p型層を用いないで発光させることができるVFDにAlInNを搭載する事を考え,双葉電子工業の協力を得て実装した。VFDは電子線励起型の発光素子であり,高精細な車載インパネや小型表示機として実用化されており,低コスト化も可能。
ここで,単なるUVや可視光源としてだけでなく,偏光板が1枚少なくてすむ液晶バックライト等にも使用可能な偏光光源として用いることができるように,非極性m面にAlInNをエピタキシャル成長させ,その薄膜ナノ構造を VFDに搭載して波長215nm程度のDUV光から緑色までの小型偏光光源を実現した。
この研究で開発した光源の高効率化,低コスト化,高信頼性化が実現できれば,偏光特性を持ったDUV~UVの光(工業的にはUV-A,UV-B,UV-C)や可視光線を発する小型発光素子が実現されるとしている。