東大,分子性液体の液体・液体相転移の存在証拠を観測

東京大学は,分子性液体の亜リン酸トリフェニルにおいて,液体・液体相転移が存在することを示す決定的な証拠を観測することに成功した(ニュースリリース)。

これまで,液体の構造には秩序がなく,液体状態には1種類しかないとされてきたが,近年,原子性液体のリンにおいて,液体が異なる構造をもつ複数の状態間を転移する,液体・液体相転移が観測された。また,水においても,密度の大きく異なる2つのアモルファス相が発見され,近年,液体・液体転移現象は大きな注目を集めてきた。

分子性液体の亜リン酸トリフェニルは,低温で一定温度に保持すると,密度の異なる未知のアモルファス相に変化することが知られており,この第二のアモルファス相の出現は液体・液体相転移ではないかという可能性について議論されてきた。一方で,この新しい相は,ナノメートルオーダーの極めて小さな結晶を含むことから,第二のアモルファス相の出現は単にきわめて小さい微結晶の集合体であるとするナノ結晶説も有力であった。

また,この相はナノ結晶を含むため,もとの液体に戻すために温度を上げる際,結晶成長を免れず,いわゆる逆転移,すなわち,第二のアモルファス相からもとの液体相へ,結晶状態を経ずに直接戻る過程を観測することは極めて困難だった。このことから,この第二の相の出現が相転移であることを裏付ける決定的な証拠に欠け,ナノ結晶説を完全な形で否定することは困難だった。

研究グループは,従来に比べ4桁速い高速冷却・昇温が可能な超高速DSC(示差走査熱量測定)装置を用いて,上記の結晶化の問題を克服し,第二のアモルファス相から,もとの液体相へ戻る逆転移の過程を観測することに成功した。実験では,もとの液体相と第二のアモルファス相が共存し,液体にしか存在しないガラス転移現象の観測を通し,2つの液体の間で互いに移り変わる様子を詳細にとらえることに成功し,この現象が2つの液体の間に起きる一次相転移であることを証明した。

また,第二のアモルファス相を作成する温度を変えて実験を行なった結果,作成温度により,核生成型とスピノダル型の2種類の転移様式を取ることがわかった。2種類の転移形式の存在は,これまで,研究グループが光学顕微鏡により観察することに成功していたが,光学顕微鏡の分解能の問題,微結晶の問題があり,決定的な証拠とはいえなかった。今回の熱測定においてはそのような問題はなく,ガラス転移の詳細な観察を通して上記の2つの転移様式が存在することを確実に裏付ける証拠が得られた。

研究では,ナノ結晶説についても詳細に検討し,ナノ結晶説では上記の結果が説明できないことを明らかにした。その結果,ナノ結晶説はほぼ完全に否定され,亜リン酸トリフェニルにおいて液体・液体相転移が存在することが実証された。これにより,長年の間,平行線で進んできた論争に決着をつけることができた。また,この手法を用いれば,このほかさまざまな液体における液体・液体相転移の観測が可能になるとしている。

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