理化学研究所(理研)の研究グループは,イリジウム酸化ナトリウム(Na2IrO3)やアルファ-塩化ルテニウム(α-RuCl3)などの絶縁体に,相対論的モット絶縁体を特徴づける励起状態を発見した(ニュースリリース)。
近年,ハニカム(蜂の巣)構造を持つ相対論的スピン軌道相互作用の強い4dおよび5d遷移金属化合物が注目を集めている。これらを代表する物質にNa2IrO3やα-RuCl3といった絶縁体があるが,なぜ絶縁体になるかは二つの異なる機構が提案されていた。
一つは,ハニカム格子の六角形構造を利用した局所的な分子軌道を形成することによって,バンド絶縁体になる「分子軌道性バンド絶縁化機構」。そしてもう一つは,相対論的スピン軌道相互作用の効果で出現する軌道が電子間クーロン斥力によって,モット絶縁体になる「相対論的モット絶縁化機構」。
しかし,これらの機構は極端な状況を想定したものであり,現実の物質がどちらの機構によって特徴付けられるか,その明確な判断基準はなかった。
研究グループは,多体効果とスピン軌道相互作用を厳密に取り扱ったクラスター計算を行なった。その結果,ハニカム構造を持つ相対論的モット絶縁体では,スピン軌道相互作用と多体効果に起因する“特徴的な励起状態”が出現することを示した。
さらに,今回の計算結果と現在までに行われた光学伝導度や共鳴非弾性X線散乱実験の結果を比較することで,現存するNa2IrO3やα-RuCl3といった絶縁体は相対論的モット絶縁体に分類されることを示した。
ハニカム格子上の相対論的モット絶縁体は,特殊な磁気交換相互作用によってキタエフスピン液体などの実現が期待されている。この成果は,量子コンピューターに利用できるとされるキタエフスピン液体を含む新しい物質探索に向けた実験的手掛かりを与えるとしている。