東工大ら,FETの欠陥でコヒーレンス制御に成功

東京工業大学の研究グループは,英ケンブリッジ大学と共同で,半導体デバイスである電界効果トランジスタ(FET)の酸化膜中の欠陥について,通常ノイズとして扱うところを注意深く制御し,それがコヒーレンス時間の長い2準位状態になることを発見した(ニュースリリース)。

近年,従来のスーパーコンピューターでは何年もかかる計算が,量子コンピュータを使用すると短時間で可能になることがわかってきた。量子コンピューターの実現のためには,安定した量子2準位系と長いコヒーレンス時間を実現することが必要だった。

研究グループは,電界効果トランジスタにおけるゲート酸化膜中の欠陥が作る電子状態とマイクロ波の相互作用を低温下で測定した。欠陥は電子をトラップ(捕獲)して動かなくするため,半導体デバイスの性能を低下させ,トラップへの電子の出入りはノイズとして取り扱われる。しかし,トラップの性質を注意深く制御すると,コヒーレンス時間の長い2準位状態になることを発見した。

今回,半導体/酸化膜界面に多くの欠陥準位を導入するため,酸化膜の素材にはTiO2やAl2O3を用いたFETを作製した。実験では,温度が80Kの時,電極(ソース・ドレイン電極)間のチャネルを流れる電流が時間の経過と共に大きくなったり小さくなったりする。これはランダムテレグラフノイズ(RTN)と呼ばれる。

欠陥準位に電子が捕獲された状態と解放された状態で電流の輸送経路が変わるためにRTNが発生する。さらに4.2Kに冷却すると熱エネルギーが小さくなるため,RTNは凍結されてほとんど観測されなくなる。

この状態で,周波数0.8~2.5GHzのマイクロ波を照射したとき,マイクロ波と欠陥にある電子との共鳴現象により電流が極端に増加して,Q値が100,000におよぶ鋭い共鳴ピークを示した。このピークの位置は大変安定で,数日間放置しても変わらなかった。ピークの形状はファノ型とローレンツ型に分類することができる。

TiO2試料の場合にはコヒーレンス時間は1~40μ秒に達し,これまでに発表された電荷ベースQubit(100ナノ秒)と比較して3桁大きい値を示した。これは,将来の量子コンピュータへの応用が期待できる特性だという。

今後,FET中の欠陥のミクロな起源について解明していく必要があるほか,今回発見した現象を活用して量子コンピュータを実現するため,ラビ振動の観測や量子ゲートの動作,エンタングルメントの観察などを行なっていくという。

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