東北大ら,光ディスク材料の相変化を超高速で観察

京都大学,および,大阪大学,東北大学らの研究グループは,フェムト秒レーザーによって相変化するGST合金の構造変化ダイナミクスを明らかにすることを目的とし,SACLA(理研)のX線自由電子レーザーを用いてピコ秒以下の時間刻みで時間分解X線回折(XRD)をプローブとするポンプ・プローブ測定を行なった(ニュースリリース)。

GST合金の中でも代表的な組成であるGe2Sb2Te5(岩塩型構造)とGeTe(歪んだ岩塩型構造)のフェムト秒レーザー励起直後の結晶構造変化の経時変化を明らかにし,併せて光学特性に関するポンプ・プローブ測定,第一原理分子動力学シミュレーションの結果を総合的に解釈して相変化材料の高速相変化挙動のメカニズムについて考察した。

DVDやブルーレイディスクなど書換型光ディスクのデータ記録層として広く用いられているカルコゲナイド系光相変化物質Ge-Sb-Te(GST)は,ナノ秒単位のレーザーパルスにより,結晶状態とアモルファス状態の間で変化し,大きな反射率変化が起きる。

光ディスクではこの仕組みを利用してデータの記録や読み込みを行なっており,GSTは結晶とアモルファスのどちらの状態でも熱の変化に強いという特徴を持つため,実用的な材料として活用されている。

近年,GSTがフェムト秒の極めて短いレーザーパルス(フェムト秒レーザー)の照射により結晶相からアモルファス相への相変化をピコ秒程度で起こすという報告がなされ,記録速度の飛躍的な向上や消費電力削減の可能性から注目を集めている。

フェムト秒レーザー照射による高速アモルファス化メカニズムの解明は,今後の材料設計に対し非常に重要であることから,理論計算をベースにいくつかのモデルが提案されている。しかし,これらはいずれも構造変化を実際に直接観察して得られたものではなく,その構造変化過程についてはまだよくわかっていなかった。

岩塩型構造では,各Ge原子は6つのTe原子からなる八面体の中心付近に,わずかにずれて存在している。フェムト秒レーザー励起直後,Ge原子の動きがTe原子の動きと比べてはるかに大きくなり,八面体中心からの変位を保ちながら,ある球殻上の任意サイト間を振動あるいは運動する「Rattling motion」を生じることが分かった。これは,かご(Te)の中に鈴やボール(Ge)を入れ振り回すような運動。

このRattling motionは,GST系結晶の光学特性を生む特異な結合モード(共鳴結合)を瞬時に壊すことが可能と考えられ,既に報告されている高速反射率変化をうまく説明することができる。

同時に行なった第一原理分子動力学シミュレーションにより得られたアモルファス構造を解析すると,前述の結晶に特有の共鳴結合状態から,本来的な結合(Ge-Te結合の二量体化)へと組み換えが生じやすくなり,やがてアモルファス化が生じると考えられるという。

すなわち,今回の成果では,フェムト秒励起→ラトリングモーション→二量体化→アモルファス化という過程で超高速相変化が誘発されるという新たな機構を提案した。

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