東北大学の研究グループは,ナノアンテナとして人工光学物質メタマテリアルを用いて量子ドットの発光波長を精密に制御す る技術を開発した(ニュースリリース)。
研究グループは,光の波長より小さな金属構造で構成される人工光学物質メタマテリアルに注目し,非対称型ダブルバー(ADB)メタマテリアルを開発した。
ADBメタマテリアルは,長さの異なる2本の平行な金属棒構造で形成されており,金属には金が使われている。このようなADB メタマテリアルを周期450nmで石英基板上に二次元配列した。
研究では,発光中心波長1366nmのPbS量子ドットを発光体として用いた。量子ドットはポリマー薄膜中に分散しており,ADBメタマテリアル上に配置されている。
ADBメタマテリアルのFano共鳴とポリマー中の量子ドットからの発光を光結合させるために,Fano共鳴波長が量子ドットの発光波長と一致するようにADBメタマテリアルの寸法を設計した。
励起光として波長 532nmのレーザー光をADBメタマテリアル上面から照射し,ADBメタマテリアル上面の発光スペクトルを観察した。
光学特性はADBメタマテリアルの形状で制御することができ,今回,10nmの精度で寸法制御されたADBメタマテリアルを発光中心波長1366nmの量子ドットと組み合わせ,1350~1376nmの範囲で発光中心波長を精密制御することに成功した。
発光波長の変化の傾向は,解析結果でもよく再現することが出来た。また,量子ドットだけ(ADBメタマテリアル無し)の発光特性と比べ,4倍の発光増強と強い偏光依存性を観測した。
メタマテリアルによる光共振器は単位構造で動作するため,周期性が必要なフォトニック結晶よりも小さな光共振器が実現できる。また,半導体リソグラフィー技術によるパターン形成により,任意形状の光共振器を決められた位置に大量一括製作することができる。
これらの利点を活かし,ディスプレー,量子情報通信用単一光子源,生化学バイオマーカーなどへの応用が期待されるという。
また,光メタマテリアルのジュール損失を量子ドットの光利得で補償できるため,光領域における負の屈折率,透明マント(クローキング),完全レンズの実用化に向けて重要な技術になると期待されるとしている。
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