筑波大ら,電子を光の周期より短い時間で操作

筑波大学は,スイス チューリッヒ工科大学と東京大学との共同研究により,パルス光を誘電体に照射するとき,光の周期よりも短い時間で誘電体の光学的性質が変化することを示した(ニュースリリース)。

筑波大学のグループは,長年にわたり第一原理量子力学計算コードARTED(Ab-initio Real Time Electron Dynamics simulator)を開発してきた。これは,ナノメートル以下の電子の運動と,マイクロメートル程度の波長を持つ光電磁場の運動を同時に記述することができる,世界で唯一の計算コード。

一方,チューリッヒ工科大学は,非常に短いパルス光を用いた実験技術の開発を進め,現在では1フェムト秒の数分の1の長さを持つ紫外線アト秒パルス光を発生することに成功している。

このアト秒パルス光を用いた測定により,物質中における電子の超高速運動の直接測定ができる。この研究は,ペタヘルツの光電場により電子がどのように応答するかを,両校の協力により探求したもの。

今回,2つのレーザーパルス光を50㎚の厚さをもつダイヤモンド薄膜に同時に照射した。1つめは,強い数フェムト秒の赤外線レーザーパルス光。この光の電場は,ペタヘルツの4割程度の振動数を持ち,パルス内で5回ほど振動する。1 回の振動にかかる時間は2.7フェムト秒程度。この光電場がダイヤモンド中の電子を揺する。

もう一つのレーザーパルス光を用いて,この揺すられた電子の運動を調べた。2つめのレーザーパルス光は、最初のものよりもはるかに短く0.25フェムト秒程度の長さ。2つめのパルス光が,ダイヤモンドによりどのように吸収されるかを調べることで,1つめのパルス光が揺すった電子の運動を捉えることができる。

実験による測定では,1つめのレーザーパルス光のもつリズムで,2つめのレーザーパルス光の吸収に変化が現れるという結果が得られた。この吸収の変化が,電子のどのような運動に起因するのかを明らかにするために,実験の設定と正確に一致するシミュレーションを行なったところ,実験で測定された2つめのレーザーパルス光の吸収の変化を,高い精度で再現することができた。

実験と比べてシミュレーションは,吸収の変化がどのような電子の運動に起因するのかを,さまざまな効果をオン・オフすることで調べられる点で優れている。その結果,吸収の変化がダイヤモンドの2つのエネルギーバンド内の電子の運動に起因し,フランツ-ケルディッシュ効果と呼ばれるメカニズムによることが明らかとなった。

今回の研究は,ペタヘルツの振動数を持つパルス光により物質中の電子がどのように運動するかを明らかにした。ペタヘルツで動作するエレクトロニクスを実現するためには,まだ多くの研究が必要とされるが,そのための重要な一歩となる成果だとしている。

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