阪大ら,グラフェンの電子分配過程の観測に成功

大阪大学,東京大学,京都大学,物質・材料研究機構らの研究グループは共同研究により,金属と半導体の両方の性質を持つグラフェン中に形成されたpn接合での量子ホール状態における電流ゆらぎを精密に研究し,pn接合によって電子が接合の左右に分配される様子(電子分配過程)を,電流ゆらぎとして初めて観測することに成功した(ニュースリリース)。また,pn接合がない際には,異なる量子ホール状態の接合があった場合でも電子が分配されないことも同時に明らかになった。

2004年の報告以降,新規半導体材料として期待されているグラフェンにおいてもpn接合を形成することができるが,グラフェンの場合には,その特異な電子構造を反映した特色あるpn接合となることが知られており,その電子輸送の研究がこれまで盛んに行なわれてきた。

特にグラフェンでは,強い磁場中におくことによって,これまで実現が困難であった量子ホール状態にあるpn接合の研究が可能となる。

これまでの伝導度測定の結果,量子ホール状態にあるグラフェンpn接合では,量子ホール状態が完全に混じりあう結果,接合の両側への電子の分配過程の存在が推察されていた。しかし,この電子分配過程を直接的に実証した報告はなかった。

研究チームは,グラフェンpn接合における電子の分配の様子の直接観察とその機構の解明のため,電流ゆらぎ(ショット雑音)測定を行なった。ショット雑音とは,電流の実体が,素電荷を持つ電子という単位により構成されているために起こる電流のゆらぎ(雑音)のこと。

量子ホール状態では,電流は一方向にのみしか流れることを許されず,ゆらぐことができないためにショット雑音は観測されないことが知られている。

しかし,量子ホール状態にあるグラフェンpn接合では,接合において量子ホール状態が完全に混合する結果,電子が接合を確率的に通過するという電子分配過程が生じるため,電流にゆらぎ(ショット雑音)が発生することが期待されていた。

研究では,ゲート電極を組み合わせることによりpn接合を形成可能なグラフェン試料を作製し,低温強磁場下において高精度な電流ゆらぎ測定を行なった。その結果,量子ホール状態でpn接合のある場合にはショット雑音が発生するのに対し,pn接合のない場合にはショット雑音が発生しないことを明らかにした。

また,観測されたショット雑音の大きさが,理論予想とほぼ一致することも実証した。これらの結果は,量子ホール状態にあるpn接合が電子を分配するということを世界で初めて直接的に示した成果であり,グラフェンpn接合で起こる電子分配の微視的特性を初めて定量的に確立した成果。

今回,量子ホール状態にあるグラフェンにおいてpn接合が電子分配機構を持つことを初めて直接的に実証した。この結果は,ギャップのないグラフェンでは実現困難な量子ポイントコンタクトに代わる電子分配機構としてpn接合が利用可能であることを示しており,グラフェンを用いた電子干渉デバイス等の実現につながることが期待されるという。

また,高移動度のグラフェンではpn接合でのキャリアの振る舞いがスピン自由度やバレー自由度に依存することが報告されており,これらの特性の解明と制御へと発展していくことが期待されるとている。

関連記事「東工大,大容量リチウム空気電池のグラフェン電極を開発」「名大ら,ホウ素をドープしたグラフェンナノリボンの生成に成功」「東大,レンジとイオン液体でグラフェンを大量生産