名古屋大学の研究チームは,日米の太陽観測衛星2機による共同観測と数値シミュレーションを組み合わせた研究から,太陽コロナ加熱問題を解決する糸口となる,波動エネルギーが熱エネルギーへ変換される過程を捉えることに初めて成功した(ニュースリリース)。
6000度の太陽表面に対して,太陽大気コロナは100万度という高温であることは,今も太陽・天体研究における大きな謎の1つ。これは「コロナ加熱問題」と呼ばれており,観測・理論両面から研究が進められている。
2006年に打ち上げられた太陽観測衛星の高空間分解能を活かした観測から,「アルヴェン波」と呼ばれる磁力線を伝播する波動が゙太陽大気中には満ち溢れていることが明らかとなった。観測されたこれらの波動はコロナを高温に保つエネルギーを十分に持っているものの,波動はただ存在するだけではコロナを加熱できない。
これらの波動がどのように熱化するのか,つまり波動から熱へのエネルギー変換過程を明らかにすることが求められている。アルヴェン波は横波という性質上,エネルギーの減衰が少なく,遠方のコロナまで効率的にエネルギーを運べる反面,熱化しにくく加熱に向かないという矛盾を抱えている。
アルヴェン波の効果的な熱化過程の解明は重要な課題だが,観測的に捉えることは困難とされてきた。「ひので」が観測できるのは上下方向の動きのみで,奥行き方向の動き(我々に近づいたり遠ざかったりする方向:ドップラー速度)はわからず,アルヴェン波の熱化に関連する決定的な物理情報を得ることはできない。
そこで研究グループは「ひので」に加え,NASAの太陽観測衛星「IRIS」を用いて,この変換過程の解明にチャレンジした。「IRIS」は,「ひので」の観測を踏まえて提案・開発された衛星。「ひので」と同等の空間分解能力で紫外線の分光観測を行ない,太陽大気の奥行き方向の動きを捉えることができる。
研究グループは2013年10月19日,「ひので」と「IRIS」両衛星による共同観測を実施した。コロナ中に浮かぶプロミネンス(コロナの中に深紅色の炎状に見えるもの)のデータを取得し,「ひので」で上下方向の動きを,「IRIS」により奥行き方向の動きを観測し解析した結果,2つの重要な事実を発見した。
第一の発見はプロミネンスの加熱について。「ひので」が観測していた低温のプロミネンスが時間経過とともに消失する際,「IRIS」によって高温成分の出現が捉えられた。この観測からは,プロミネンスの温度が1万度から少なくとも10万度へ上がる様子が明らかになった。また,このプロミネンスの多くは波動を伴っており,この波動が加熱に寄与していることを示している。
第二の発見は,奇妙な振動のパターンて。「ひので」が観測したプロミネンスを構成する磁力線の上下振動と,その振動箇所での「IRIS」による奥行き方向の運動を比較すると,通常想定される振動パターンとは異なっていた。通常の振動パターンとは,上下振動の最上点と最下点で速度ゼロ,中心位置て速度最大となるものを指す。一方,今回観測されたものは最上点と最下点で最大速度,中心位置で速度ゼロとなっていた。
この現象には,共鳴吸収という物理過程が関わっており,これが観測されたのは初めてとなる。観測的研究が極めて難しいとされるこの過程を実証的に調べた意義は大きく,研究グループでは波動エネルギーから熱エネルギーへの変換過程を実証的に調べることが可能であると示したことにより,波動によるコロナ加熱問題解明へ弾みが付くと期待している。
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