産総研ら,ペロブスカイト太陽電池の発電層形成を高速観察

産業技術総合研究所(産総研)と高輝度光科学研究センター(JASRI)は共同で,有機鉛ペロブスカイト太陽電池の作製過程を,大型放射光施設SPring-8を利用したX線回折により解析し,発電層ができる過程を明らかにした(ニュースリリース)。

有機鉛ペロブスカイト太陽電池は2013年に15%を超える変換効率が報告されて以来,研究開発が活発に行なわれており,現在では20%を超える効率が報告されている。高効率で低コストの太陽電池として期待されている一方で,高い効率の太陽電池を再現性良く作製することが困難な点が問題となっている。

再現性良く高い効率を実現させるためには,製造時の発電層形成メカニズムを明らかにすることが重要と考えられるが,これまでの研究では十分な速さでのリアルタイム観察は行なわれておらず,発電層形成過程の理解が十分ではなかった。

有機鉛ペロブスカイト太陽電池の発電層を構成するペロブスカイト結晶は,ヨウ化鉛(PbI2)などのハロゲン化鉛とヨウ化メチルアミン(CH3NH3I)などのハロゲン化有機アミンを混合して形成される。

今回,大型放射光施設SPring-8の放射光X線ビームライン上にPbI2薄膜を設置し,そこへCH3NH3I溶液を滴下してペロブスカイト結晶が形成されていく過程をX線回折法により観察した。X線2次元検出器を用いて,毎秒10コマで,試料から散乱された回折X線のデータを取得し,結晶形成のダイナミクスを解析した。

原料のPbI2が時間と共に減少し,ペロブスカイト結晶が形成される反応の進行速度の解析により,通常の拡散現象ではない異常拡散過程によって反応が進行することが分かった。これは,PbI2を媒質として,CH3NH3Iが拡散していく際に,媒質の不均質性を反映して樹状に枝分かれしながら拡散していると考えられる。

さらにX線回折像の角度の解析を行なった。反応初期には,特定の2方向に配向した結晶が形成されていくが,時間とともにランダムな配向に移行していった。このことから,ペロブスカイト結晶の形成過程では,結晶が流動的に変化していると考えられる。

これまでもX線回折を用いてペロブスカイト結晶の形成過程を観察した研究例は報告されているが,今回,毎秒10コマの速い撮影速度で測定し,反応速度や結晶の配向を詳細に解析したことにより,異常拡散や結晶の流動的な配向変化などの特異な現象を世界で初めて見出すことができた。

結晶形成過程に見られるこれらの挙動により,ペロブスカイト薄膜形成の再現性が悪くなっていると考えられる。再現性良く高効率の太陽電池を作製するには,これらの特異な現象をいかに制御していくかが重要となる。

研究グループは今後,今回の知見を素子作製の研究にフィードバックし,高効率の太陽電池を再現性良く作製するためのプロセス開発を行なう。放射光によるX線回折法がペロブスカイト結晶の形成過程の解析に有効とわかったので,構造解析と素子開発の研究を相補的に行ない,研究開発を加速させ,2020年までに有機鉛ペロブスカイト太陽電池を実用化することを目指すとしている。

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