岡山大,独自の人工網膜でラットの視覚回復に成功

岡山大学のグループは,同大学方式の人工網膜OUReP™が,ラットの視覚を回復することとラットの網膜電図を誘導することを世界で初めて証明した(ニュースリリース)。

米で開発・販売されている既存の人工網膜は,カメラで取り込んだ映像を60画素に画像処理して,その信号を顔面皮内に植込んだ受信機に伝送し,その受信機から60本の電線を出して眼球内に挿入し,網膜近傍に植込んだ60個の電極集合体(アレイ)から電流を出力する。出力電流によって網膜内に残っている神経節細胞が刺激されて視覚を生じる。

この「カメラ撮像・電極アレイ方式の人工網膜」は,日本も含めた世界中で開発されている。しかし,構造が複雑で植込みの手術手技が難しい,電極の小型化が難しく分解能が悪い(つまり見えない),広い面積の網膜を刺激することができず視野が狭い,1000万円を超える高額医療機器であるなどの問題がある。

研究グループは,これらの人工網膜とは全く異なる世界初の新方式である「色素結合薄膜型」の人工網膜「OUReP™」を開発してきた。これは,光を吸収して電位差を出力する光電変換色素分子をポリエチレン薄膜(フィルム)に化学結合したもの。この新方式の人工網膜は,電流を出力するのではなく,光を受けて電位差を出力し,近傍の神経細胞を刺激する。

「色素結合薄膜型」の人工網膜は薄くて柔らかいので,大きなサイズ(直径10mm大)のものを丸めて小さな切開創から眼球内の網膜下へ植込むことが可能で,確立している手術を応用できる。大きなサイズ(面積)の人工網膜なので得られる視野は広く,人工網膜表面の多数の色素分子が網膜の残存神経細胞を1つずつ刺激するので,視覚の分解能も高いと見込まれるほか,原材料も安価なので,手の届く価格で供給できるという。

研究グループは今回,失明してから時間の経った高齢の14週齢のラットに人工網膜を植込み,行動実験を行なった結果,高齢のラットでも人工網膜によって視覚が回復することを証明した。研究グループは以前の研究で,失明して間もない6週齢の若い網膜色素変性ラット(RCSラット)で視覚が回復することを確認している。

また,6週齢の網膜色素変性ラットに人工網膜を植込んで5か月後の網膜の状態を観察したところ,網膜神経細胞死(アポトーシス)が抑制されていることが分かり,人工網膜に神経保護作用があることも示された。

さらに,6週齢の網膜色素変性ラットに人工網膜を植込んで4週後の網膜電図(網膜の電気的活動)を記録したところ,人工網膜を植込んでいないラットと比べて網膜電図が誘発されていることが分かった。これは人工網膜が機能していることによるものであり,その有効性が示されたものと考えられるとしている。

現在までに,同大の人工網膜OUReP™は毒性がないことを生物学的安全性評価に基づいて証明している。今回の研究成果は,人工網膜の有効性をさらに補強し,網膜色素変性の患者が参加する医師主導治験に向けた根拠になるもので,人工網膜の製造管理と品質管理も確立した。現在,クリーンルームの環境の中で人工網膜を作る製造ラインを,岡山大インキュベータ(岡山市北区)に整備しており,今後この製造ラインで作った人工網膜を治験機器として,岡山大学病院に提供するとしている。

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