原研ら,光学ガラス廃材からレアアースを低コスト・高効率に高純度で回収することに成功

日本原子力研究開発機構(原研)とアサカ理研は,同機構が開発を進めている“エマルションフロー法”を用いて,光学ガラス廃材や低品位レアアース原料から酸処理などによって溶出させたレアアースを,低コストで高効率に,純度99.999%(ファイブナイン)まで分離・精製することに成功した(ニュースリリース)。

光学ガラス廃材には,ランタン,ガドリニウムなどのレアアースがかなりの量で含まれており,これらを回収・リサイクルできれば,貴重な資源を有効に再利用できる。また,光学ガラスの製造に用いる中国製の高純度レアアース原料の輸入価格は高額であるが,低品位レアアース原料を安く購入して分離・精製(高純度化)すれば,より安価に高純度レアアース原料を得ることができる。

原研では,原子力分野における化学分離技術の高度化を図っている。エマルションフロー法による廃材内レアアースの分離・精製技術の開発は,同機構が特許技術をアサカ理研に開示して行なった共同研究の成果。価格変動の激しいレアアース・レアメタルのリサイクルは,従来の方法では商業ベースにのせることがきわめて困難だったが,今回,低コストと高効率が両立したエマルションフロー法により,その実現を大きく前進させた。

“エマルションフロー法”は,溶媒抽出と呼ばれる方法の一種。溶媒抽出では,水と油(溶媒)を混合して水に溶存する成分の油への抽出を促し,その後,排水のために水と油を分離する。工業的には,撹拌によって水と油を混合した後,水と油が重力分離するのを待って排水するミキサーセトラー法が一般的に用いられる。

一方,エマルションフロー法では,撹拌などを行なわず,ポンプ送液のみで水と油を乳濁状態(エマルション)にまで混合し,抽出容器内の流れの変化を利用して重力分離を待たずに水と油を迅速分離する。従来装置とは異なり,水相と有機相の混合に,撹拌,振とう,遠心力などの機械的な外力をいっさい必要としない。

そのため,廃材内レアアース処理コストをミキサーセトラー法の5分の1以下にできる上に,10倍以上の処理速度を実現でき,多数の装置を連結して用いるレアアース精製を10分の1以下にコンパクト化させた。また,排水に油分を混入させないことから環境にもやさしいという。

アサカ理研では,新たな研究開発拠点を福島県いわき市に建設し,経済産業省および福島県の大型補助金を活用しながら,レアアースを高純度回収するエマルションフロー法の実証プラント試験を進めている。

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