理化学研究所脳科学総合研究センター細胞機能探索技術開発チームチームリーダーの宮脇敦史氏、基礎科学特別研究員の熊谷安希子氏らの研究チームは、ニホンウナギの筋肉に存在する緑色蛍光タンパク質が、バイオマーカーとして有名なビリルビンと結合して蛍光を発する仕組みを発見した。この成果を応用して、ヒトの血清などに含まれるビリルビンを直接的に定量する蛍光検出試薬(ビリルビンセンサー)を開発した。
ニホンウナギは、産卵海域(マリアナ海嶺)の発見や昨今の漁獲高激減など、話題の絶えない魚である。2009年には、鹿児島大学の林征一教授(当時)らによって、ニホンウナギの筋肉における緑色蛍光タンパク質の存在が示されたが、その実体については不明のままだった。
研究チームは、ニホンウナギの稚魚5匹を材料に用い、緑色蛍光タンパク質に対応する遺伝子の単離に成功、その遺伝子産物を「UnaG(ユーナジー)」と命名した。UnaG の蛍光を詳しく調べると、何らかのリガンドが結合することで初めて蛍光を発する特性を明らかにした。さまざまな動物サンプルを使った探索実験を行った末、ビリルビンがUnaGのリガンドとして特異的に結合することを突き止めた。
ビリルビンは、赤血球に含まれる酸素運搬タンパク質ヘモグロビンの代謝産物の1つ。血液中のビリルビンの量が異常に増えると組織に沈着し黄疸症状が表れる。血清ビリルビン濃度は、溶血や肝臓機能を評価する指標で、一般的な健康診断の生化学検査項目に含まれ、また新生児黄疸を診断するうえでも必須の測定値である。ただ、1916年にジアゾ化法が開発されて以来、いくつかのビリルビン比色法が使われているが、いずれも原理が複雑で測定に時間がかかっていた。
研究チームは、直接にUnaGがビリルビンに結合して即座に蛍光を発することを利用して、簡単迅速に測定ができ、既存測定法に比べ3桁以上高感度、1桁以上高精度なビリルビン蛍光定量法を開発することに成功した。同じ緑色蛍光タンパク質でも、オワンクラゲ由来のGFPとウナギ由来のUnaGでは蛍光の仕組みは全く異なる。両者間で異なる応用も生まれると考えられる。今後、ヒトの健康および疾病を診断する試薬としての活用が期待できる。
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