東京大学,東北大学の研究グループは,金属らせん磁性体のらせんの巻く向きを,電流と磁場を使うことで初めて制御することに成功した(ニュースリリース)。
らせん構造は自然界の様々なものにみられ,例えば,生物のDNAもらせん構造をしている。DNAのらせんは必ず右巻きになっており,この巻く向きがどのように決定されているかは生物の起源とも絡んだ大きな謎とされている。
磁気モーメントが秩序化する磁性体の中にも磁気モーメントがらせん状に秩序化する物質がある。このうち絶縁体のらせん磁性体は,逆ジャロシンスキー守谷機構とよばれるメカニズムで,らせんの巻く向きを電場でコントロールできることが分かっていた。しかし,電場がかからない金属でどのようにらせん磁気構造の巻く向きをコントロールするかはよく分かっていなかった。
らせん磁気構造において,電流を加えることによって生まれる磁気モーメントに作用する回転力(スピントランスファートルク)の効果を考慮したところ,電流と磁場を加えたとき,らせんの巻く向きがそろい,その方向は電流と磁場が平行か反平行かによることが期待されたため,実験を行なった。
集束イオンビームによってミクロンスケールに加工した金属らせん磁性体MnP単結晶に,大きな磁場と電流を平行,もしくは反平行に加えた後,磁場の大きさを弱めてらせん秩序化させた。その後,らせんの巻く向きを抵抗率の二次高周波で測定したところ,電流と磁場が平行か反平行かに依存してそろうことが明らかとなった。
らせん磁性体の巻き方の自由度は,外場や擾乱にも強く,理想的な情報保持媒体として磁気メモリなどに将来応用される可能性がある。また,らせん磁気構造や DNAの巻き方は「キラリティー」とよばれる概念で整理されるもので,野依良治氏が2001年にノーベル化学賞を受賞したのも触媒によるキラリティーの制御になる。この研究の成果も,キラリティーの制御法の研究に一石を投じるものになるとしている。