名古屋大学,理化学研究所,ユニチカらの研究グループは,透明な生体組織を参考に,橋架けを施した高分子中に粒径の揃った直径約100nmのシリカ微粒子を高濃度で分散させると,光学的には無色透明になり,力学的には高靱性化することを発見した(ニュースリリース)。
この研究では,生体材料である角膜に倣うことで,無色透明で高靱性な複合エラストマーが開発できることを見出した。この複合エラストマーは,無色透明な高分子が低架橋された架橋高分子中に,粒径の揃ったサブミクロンサイズのシリカ微粒子が秩序を有する状態で分散した微細構造を有している。
可視光領域にて,架橋高分子を構成する高分子とは異なる屈折率を有するシリカ微粒子が高濃度で分散しているにも関わらず,シリカ微粒子が秩序を有する状態で架橋高分子中に配列したことにより,複合エラストマーは光学的に無色透明な状態となる。その微粒子配置の詳細を,大型放射光施設SPring-8のビームライン(BL05XU)の放射光を用いた実験により,明らかにした。
さらに,硬いシリカ微粒子と柔らかい架橋高分子との界面における相互作用により,複合エラストマーの弾性率と伸長性が共に増大することも発見した。シリカ微粒子を35vol%含有した複合エラ ストマーの破壊エネルギーは,シリカ微粒子を含まない系の約13.5倍にもなった。
架橋された高分子と充填剤を複合した従来の系としては,タイヤが良く知られている。架橋した生ゴムなどと,カーボンブラックやシリカ微粒子を複合することで, 強靱な複合エラストマーになる。しかし,光学的には,黒色や白色などであり,光を通すことのできる複合エラストマーは開発されていなかった。今回,生体の組織である角膜の構造を模倣することで,力学的なタフさに加えて,光学的な透明性を付与することに成功した。
また,従来の複合エラストマーでは,充填剤の添加と共に硬くなることでタフ化する一方,その伸張性は損なわれていた。しかし,この研究で見出した系は,充填剤であるシリカ微粒子を加えていくと,複合エラストマーの伸張性も良くなることが分かった。その結果,破壊に要するエネルギーが大きくなり,タフ化が実現できた。
この研究で得られた複合エラストマーは,高度先進医療,ウエアラブルディスプレー,ソフトロボットなど,未来の生活において重要な技術を実現する上で有用な材料になることが期待されるとしている。