早稲田大学の研究グループは,量子科学技術研究開発機構と共同で,1-10メガ電子ボルト(MeV)のガンマ線を可視化できる,コンパクトなカメラを開発した(ニュースリリース)。
光の仲間であるガンマ線は,波長が電子・原子のサイズに匹敵するほど短く,波ではなく粒子として振る舞う。とくに1-10 MeVのガンマ線は透過力の強さと反応の複雑さゆえ,これを直接「観る」技術は望まれつつも,確立していなかった。
たとえば先端医療では,メスをいれることなくガンの根治を促す陽子線治療が注目されているが,照射中に体内の様子(線量分布)を外から見ることは難しい。そこで陽子線が体内の元素と反応し,放出するガンマ線を「当てながら観る」ことで治療精度の向上が期待されるという。
また,1-10MeVのガンマ線は励起した様々な原子核(たとえば炭素,酸素)から生ずるため,星の内部や宇宙全体の元素合成を紐解く,重要な鍵が得られることが期待される。
今回,研究グループは新型コンプトンカメラを開発,陽子線と体内にある炭素の反応で生ずる4.4MeVガンマ線に着目し,高精度のイメージングに成功した。
開発したのは,1-10MeVのイメージングに特化した新型コンプトンカメラ。装置は非常にコンパクトで,5x5x10cm3程度となっている。
独自開発の「3Dシンチレータ」は,ガンマ線阻止能に優れたCe:GAGGシンチレータ(ガドリニウム アルミニウム ガリウム ガーネット)を採用し,これを光センサーである左右のマルチアノード型光電子増倍管(MAPMT)で挟み込むことで,ガンマ線の反応位置を3次元かつ2mmの精度で計測することが可能。
さらに,左右MAPMTから独立に得られる位置情報を比較することで,検出器内で多数回散乱したイベントの90%以上を除去し,同時に得られるスペクトル情報から,検出器外にガンマ線が逃げてしまうエスケープイベントを識別する。これにより,1-10MeVで初めて高精度のガンマ線イメージングが可能となる。
実験の結果,ガンマ線の発生分布は陽子線のエネルギー損失とほぼ正確に一致しており,治療中のオンラインモニタとしての有用性を世界で初めて実証した。今回の研究成果は陽子線治療の高度化に留まらず,宇宙科学の新しい窓の開拓へ向けて大きく貢献するものだとしている。