アストロデザインは6月13日,同社内覧会にて世界初となる透過超解像レーザー走査顕微鏡「LM-9001」を発表した。この製品の大きな特長として,①透過超解像観察,②位相/強度完全分離観察,③複数手法の同時観察(リアルタイムマルチメソッド観察)を実現した点がある。代表的なレーザー顕微鏡である共焦点レーザー顕微鏡は,観察に結像を用いるため解像度はレンズの性能に依存すると同時に,強度情報としての映像しか取れないため,位相情報は取得できない。また,共焦点レーザー顕微鏡に透過型はこれまで存在していなかった。
新製品が上記の特長を実現したのは,波長488 nmのレーザーを用いた走査型の照明系と,非結像検出光学系による構造にある。具体的にはレーザー光をスキャナーと対物レンズを介して試料に照射し,透過光をフーリエ変換面に配置した受光素子で直接受光する。非結像で得られた信号はA/D変換し,デジタル信号処理をして画像化する。
例えば結像を用いた一般的な顕微鏡では,サンプルに当てた照明光は構造による回折を受けて広がるため,対物レンズの外側の光は受光できない(=観察できない)回折限界が存在する。しかし,この顕微鏡は非結像の検出系により,従来のレンズでは取り逃がしていた微細構造からの透過光を受けられる位置に受光素子を配置できる。結像を用いないため,レンズの性能に左右されない観察が可能となった。これにより透過画像についてNA 1.2の対物水浸レンズと同等の解像度を,ドライのNA0.95の対物レンズで得ることができる超解像技術を実現した。
また,従来の位相差顕微鏡は光学手段によって位相を強調するため,同時に表示される強度情報に小さな位相情報が埋もれてしまうという短所がある。これに対し,位相と強度を電気的手法で完全に分離し,それぞれを観察できる技術を開発。その結果,従来の位相差顕微鏡よりも高精度に位相を検出することが可能となった。
さらに,受光素子を左右に配置することで,サンプルから得る透過光の強度の違いをモニタリングし,3次元情報も入手できる。つまり,透過型レーザー顕微鏡で無染色3D超解像ライブイメージングを実現している。
受光素子にはイメージセンサーではなく一般的なフォトダイオードを用いており,自由な光学配置ができる。つまり,観察方式ごとに異なる受光素子を観察側に置くことができるので,複数の情報を同一個所から同時に取得できる。具体的には,強度情報,位相情報,偏光情報などを高速デジタル処理により15 fps(1280×480画素)で同時観察ができるリアルタイムマルチメソッド観察を実現した。観察像は内蔵の9インチFull HD液晶モニターで同時表示できる。
これまでの顕微鏡で複数の情報を得ようとすると,例えば反射型顕微鏡,位相差顕微鏡,偏光顕微鏡でそれぞれサンプルを観察し,後で合成することが必要だった。さらに,試料の同じ場所を異なる顕微鏡で観察することは難しく,この顕微鏡のように一回ですべての現象を同時に取得できれば効率的な観察が可能となる。
同社は映像周辺機器メーカーとしての知名度が高く,特に8Kにおいては大きな存在感を示している。そのため同社が顕微鏡業界へ参入するのは唐突な感じもするが,社長の鈴木茂昭氏は,以前より科学分野に進出したいという思いがあったという。特に光学顕微鏡は解像度では電子顕微鏡や走査型トンネル顕微鏡に水をあけられてはいるものの,光学限界周辺での解像度やライブイメージングなどに課題があると感じており,光学顕微鏡がそこをフォローする可能性があると見ている。そこで,レーザー顕微鏡のヒット商品を世に送り出してきた研究者を迎え,10年がかりで製品開発を行なってきた。
今回の発表で鈴木氏は「この製品は誰も気が付かなかったことをやってきた最初の成果。まだまだテーマは残っているので,この顕微鏡はこれからも進化する」として,新事業への意気込みと自信を見せた。
同社ではこの顕微鏡のアプリケーションとして,バイオ細胞分野を候補に挙げる。例えばIPSのような細胞は,染色をしてしまうと細胞は汚染されて使えなくなるため,無染色で観察できるこの顕微鏡が適しているという。また樹脂素材やガラス素材などの素材・材料の研究分野においても,様々な情報を一回で得ることができるこの顕微鏡は,有効なツールになるとしている。
今後は細胞分野においてデファクトスタンダードとなっている蛍光観察に対応するため,蛍光検出に応じた光源の多波長化の他,高さ方向の情報を定期的に処理する目途が立ってきたことから,3次元の形状計測機能を付加することを想定しているという。
「LM-9001」の価格は2000万円台を想定しており,7月より受注を開始した。将来的には年間数十台を出荷したい考えだ。◇
(月刊OPTRONICS 2018年8月号掲載)