フォトニック結晶光ファイバーによる加工用kW級レーザー光の長距離伝送に成功

日本電信電話(NTT)と三菱重工業は,フォトニック結晶光ファイバー(PCF)を用いてkW級の高出力シングルモードレーザーを,加工に適した品質を維持したまま数十〜数百mにわたり伝送することに成功した。

従来,1 kWを超えるシングルモードレーザー光は10 m程度しか伝送することができなかったが,今回の成果はその数倍から数十倍の伝送距離を伸ばすことを可能にしたもの。

図1 光ファイバにおける高出力・高品質伝送能力の向上法とPCFの適用性
図1 光ファイバにおける高出力・高品質伝送能力の向上法とPCFの適用性

加工用レーザーでは光ファイバー伝送は可能で実用化もされているが,光ファイバーで伝送できる光出力と距離には光非線形現象で制限される物理的な限界がある。現在実用化されているマルチモードレーザーでは,既存のマルチモード光ファイバーを使用することで数百mの伝送を可能にするが,マルチモードレーザー光はより高い加工精度が求められる用途には不向きとされている。

共同研究は,高出力シングルモードレーザー光の長距離伝送の実現だが,NTTが研究を推進しているPCFを,高出力シングルモードレーザー光の伝送に最適な構造に設計し,高出力伝送能力を実証した。

PCFは,空孔に囲まれる領域に光を閉じ込めて伝送するもので,空孔の直径と数で屈折率を0.01%〜10%の範囲で制御をできる。この制御性を活かすことでシングルモードレーザー光の長距離伝送が可能になる。

図2 準均一構造PCFの断面イメージと特長
図2 準均一構造PCFの断面イメージと特長

しかし,断面構造が複雑化することにより,その製造性能が著しく低下するという課題があった。そこで研究では空孔の直径を一定にしたまま,空孔間隔を空孔数で調整する準均一構造PCFを新たに考案した。これにより,実効コア断面積の拡張性と光ファイバーの製造の両立を可能にした。また,空孔直径と間隔を最適化させることにより,従来の光ファイバーの4倍以上となる420 kW-mの高出力伝送能力が実現できることも数値解析よって明らかにした。

写真1 今回作製したPCFの断面写真
写真1 今回作製したPCFの断面写真

実際に製造した長さ30 mの準均一構造PCFを用い,10 kWのシングルモードレーザー発振器からの出力光を入射したところ,既存の高出力シングルモード伝送用光ファイバーの2倍以上の270 kW-mの高出力伝送能力を持つことが実証されたという。さらに,1 kWのシングルモードレーザー光を長さ300 mのPCFに入射した結果,300 kW-mの伝送を得ることができた。

今回の成果は,レーザー加工現場における場所の制約を排除できるだけでなく,高出力シングルモードレーザー発振器の利用効率の向上にもつながると期待されている。

今後,三菱重工業がこの成果をもって耐熱合金の穴あけ加工や溶接などへの適用に向けた開発を進め,2019年度以降の実用化を目指すとしている。◇

(月刊OPTRONICS 2018年6月号掲載)