慶應科学技術展に見る光技術 ─注目の研究・開発

去る12月16日,東京国際フォーラムにおいて第17回慶應科学技術展『KEIO TECHNO MALL2016』が開催された。同展は,慶應義塾大学理工学部が取り組んでいる研究活動を紹介するもので,主催は慶應義塾先端科学技術研究センター(KLL)となっている。

大学における研究活動は基礎から応用と広範にわたり,そこで得られる研究成果が社会実装につながる重要な役割を担う。特に産学連携による共同研究の推進は,大学にとってもイノベーションを生み出すためには不可欠なものとなっており,研究活動やその成果の“見える化”が求められている。

同展はそれらの意義を感じることができたものだが,アイデアをかたちにし,その後の製品化・事業化といった出口につなげる可能性を示していた。そこで今回,光技術を焦点に慶應義塾大学理工学部におけるいくつかの研究活動や成果をレポートしたい。

■PDTを不整脈治療に応用
3D心臓モデルを用いたカテーテルによるレーザー照射のデモ
3D心臓モデルを用いたカテーテルによるレーザー照射のデモ

荒井恒憲物理情報工学科教授の研究室では,光を利用した低侵襲治療技術の研究・開発を行なっているが,今回注目したのは光線力学的治療(Photodynamic Therapy:PDT)を,不整脈治療に応用する治療法だ。

PDTはガンの治療法として確立されているものだが,開発を進めているのは,これを心臓の電気伝導を遮断することで頻脈性不整脈治療に応用するというもの。現在の治療法では,その一つとして高周波通電によるアブレーション治療があり,高周波通電によって発生する熱を利用して心筋を熱凝固壊死させ,異常電気伝導を遮断させている。

しかし,この治療法では心筋組織にダメージを与えてしまう,あるいは周囲組織に対しても障害を与えるといった合併症を発症するリスクがあることが指摘されている。これを抑止するための新たな治療法の開発が進められている。例えば,組織ダメージを抑制させるバルーンタイプのものがあり,熱を発生させる電極が直接心筋組織に触れない,あるいは冷凍融解させるものもある。

POFの光カテーテル
POFの光カテーテル

荒井研究室が提案するのは,PDTを用いるPD ABLATIONで,光・酸素・光感受性薬剤によって発生する一重項酸素の殺細胞効果を利用し,薬剤が細胞に取り込まれる前に全身に分布した状態で光照射を行なうという手法だ。

具体的には光感受性薬剤を静脈注射した後,レーザー治療装置に接続したカテーテルから出射されるレーザーを計画した遮断線上へ照射し,施術する。カテーテルはプラスチック光ファイバーで,その先端は遮断部に到達すると環状型になる。1回の照射で治療が終了し,非熱効果が高いため,副作用の発症もないという。このPD ABLATIONシステムを用いた臨床研究を,荒井氏が代表を務める慶應大発ベンチャーのアライ・メッドフォトン研究所と共同で2017年度中にも開始するとしている。

■40 Gb/sの伝送速度を持つプラスチック光ファイバー
GI型POF
GI型POF

小池康博物理情報学科教授の研究室ではGI型POF(屈折率分布型プラスチック光ファイバー)などの成果を公開した。GI型POFは,信号伝送するコア部に放物線状の屈折率分布を持ち,マルチモードファイバー特有の信号劣化(モード分散)を最小化したもので,最大の特長が曲げても結んでも折れることがなく伝送に影響がないこと。母材は全フッ素化ポリマーで,100 m長で40 Gb/sの高速伝送性能も達成させている。

また,ファイバー端面接続を容易にする接続技術も開発。ボールペンの製造技術を応用したもので,高精度な軸合わせを必要とする従来の突合せ接続方式に対して,球状レンズを使用することで軸ズレとファイバー間距離に対する許容度が向上する。また,ファイバー端面の埃の吸着や物理的接触によるキズなどから保護する機能も併せ持っている。

ボールペンの製造技術を取り入れたGI型POFケーブル
ボールペンの製造技術を取り入れたGI型POFケーブル

この技術は,4Kや8Kといった大容量映像データ間通接続の候補として注目されている。GI型POFを巡っては,2015年11月に本多通信工業が10 Gb/s伝送モジュールのコンセプトモデルを発表している。