注目の光ベンチャー ─NEDOが支援する期待の光技術

2016年10月24日〜25日,東京・虎ノ門ヒルズで第4回となるイノベーション リーダーズ サミット(Innovation Leaders Summit:ILS)が開催された。これは新規に起業をしようとする若者の中から有望と思える人たちをピックアップし,具体的な支援を行なう経済界リーダー交流組織「SEOU会」が主催するもので,期間中にプレゼンや展示会を通じて,数多くの大手企業やベンチャーキャピタルとベンチャー企業がマッチングを行なった。

その会場内では,新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が,同機構がサポートを行なうベンチャー企業を紹介するスペースを設けた。ここではそのうち,光技術を用いる注目のベンチャー企業を紹介する。

■光渦レーザーが作り出す「無痛針」
2.5μm吸収波長で加工したホローマイクロニードル
2.5μm吸収波長で加工したホローマイクロニードル

シンクランドは光渦レーザーによる微細加工技術により,糖尿病患者が自ら行なっているインスリン注射の負担を軽減しようとしている。同社によると,世界に4.2億人いると言われる糖尿病患者のうち,10%が朝晩の食後にインスリン注射を行なう必要があるという。注射は痛みを伴うほか,使用後は医療廃棄物として病院に返却する必要があるなど患者のQOLを損なう要素が大きい。

開発するのはホローマイクロニードルと呼ぶ超小型の針とその製造技術。これはφ40μm程度の棘状の針をアレー状に並べたもの。痛点(φ100μm〜200μm)よりも細い針は無痛であると言われている(金属製の最も細い注射針の直径はφ180μm)。材料にヒアルロン酸ナトリウムなどの有機系材料を用いれば使用後は針が体内に吸収されるので返却の必要も無くなる。

この針は千葉大学と北海道大が特許を持つ光渦レーザー(螺旋波面とドーナツ型の強度分布を持つレーザー)によって作製しており,同社は両大学から特許の独占実施権を得ると共に,針の中心にレーザーで正確に薬液注入用の穴を開けるなどの周辺技術も開発した。

この針は光渦レーザー光源をマルチヘッド化することで量産性も優れたものになる。金型を使った鋳型転写や射出成型は離型の問題から製造する針の形状や本数に限界があるが,光渦レーザーにはこうした制約がないからだ。「自動化により従来技術を上回る生産性がある」(代表取締役社長 宮地邦男氏)という。

試作では現在の注射器と同じサイズのカートリッジ(面積4 mm×4 mm)に8×8=64本のホローマイクロニードルを作成し,最大1 mlの薬液の吐出に成功している。これはインスリンの注射に必要な0.1〜0.5 mlを大きく上回る。ただし,注射針として製品化するためには針の高さを現在の42μmから真皮に届く200μm以上にする必要があるといい,今後は条件出しとシミュレーションを繰り返しながら開発を進めていく。

■レーザーによる見守りセンサー
LED照明を兼ねたデザイン
LED照明を兼ねたデザイン

慶応大学発ベンチャーのイデアクエストは被介護者のベッドでの様子を非接触・無拘束で観察することができる「OWLSIGHT」(アウルサイト)を開発し,販売を開始している。

現在,特に老人介護施設などでは,被介護者がベッドから転落したり不用意に離れたりするのを防ぐのに苦心している。装置による検知も検討されているが,カメラによる監視はプライバシーの問題があり,接触式の転落マットは転落する前の動きを捉えて事故を防ぐのが難しいという問題がある。

OWLSIGHTは赤外線レーザー(808 nm)を回折素子に当てて約2000点の輝点としてベッド上に照射し,赤外のみに感度のあるCCDカメラで観察する。データは点群であるためプライバシーも確保され,介護者はスマートフォンでその様子を確認できる。

カメラは被介護者の位置を捉えるポジションセンサーと基長線から被介護者の呼吸など細かい動きを観察するモーションセンサーの2台を備える。

ベッドの様子はスマホで確認できる
ベッドの様子はスマホで確認できる

同社はこのセンサーにAIを組み合わせ,被介護者の動きからその危険度を識別し警告するシステムを構築した。例えば被介護者がベッド上で寝返りをした場合,それが一過性の動きなのか,苦しがっている動きなのかを認識できるという。さらに,呼吸の有無から無呼吸症候群を診断する実証実験も行なっている。

この装置はログを残せるので,「万一の事故の際には原因の究明や家族に対する説明,責任の所在を明らかにすることにも役立つ」(代表取締役CEO 坂本光広氏)という。

同社ではこのセンシング技術の応用をさらに拡大し,新生児用の呼吸評価や,高齢者の嚥下機能の評価を行なう装置にも適用し,製品化を進めていきたい考えだ。

■カラーで撮影する赤外線カメラ
暗室内でもカラー撮影が可能
暗室内でもカラー撮影が可能

産業技術総合研究所(産総研)発ベンチャーのナノルクスは赤外線に発見した可視光の色の要素を利用し,カラー撮影を実現した赤外線カメラの開発・販売を行なっている。

近赤外線領域には可視光の3原色に対応する反射強度の情報があり,これらの相関関係を利用することで,赤外線情報だけでカラー画像が再現できる。これにより,これまでモノクロで行なわれていた監視カメラや動物の観察などをカラー化することが可能になる。

同社のカメラは700〜1000 nmの赤外線を照明として用い,捉えた反射光をカラー画像として合成する。赤外線投光器は必要となるが,カメラ自体の構造は変わらないので,価格も同程度を実現できるという。

同社では赤外線を分光する方式として,イメージセンサー上にカラーフィルターを組成するイメージセンサー方式,プリズムで分光するプリズム方式,そしてLED点滅方式を開発している。

このうちLED方式は,3種類の波長の異なるLEDを1秒間に60回などのスピードで順次に点灯し,センサーでタイミングをとって受光することで分光する方法。「この方式は仕組みが簡単で開発が比較的容易であるため,フレキシブルな製品提供に適している」(代表取締役社長 祖父江基史氏)という。

この技術は当初,産総研の研究であったが,同社が技術移転ベンチャーとして2010年に独立した。また,当時産総研と研究を行なっていたシャープもこの技術を用いた監視カメラを製品化している。

■レーザーによる効率的な電子線源
開発した電子線源のモックアップ
開発した電子線源のモックアップ

新たな電子線源によって,観察から加工までの電子線アプリケーションの革新を目指すのが,名古屋大学発ベンチャーのPhoto electron Soulだ。

電子線は電子顕微鏡による観察からリソグラフィなどの加工まで,微細世界において重要な役割を果たしている。その心臓部となる電子線源の方式はエジソン効果による熱陰極方式もしくは,ショットキー効果またはトンネル効果によるフィールドエミッタ方式が主流だが,同社は光電効果かつトンネル効果を用いた「半導体フォトカソード法」による電子線源を開発した。

これはGaN系半導体を用いた陰極に紫外線レーザーを照射することで電子ビームを取り出すというもの。半導体材料を用いることで従来技術よりも低コスト簡便なシステムを実現したという。これにより従来では不可能であった高性能かつ多彩(パルス構造,低分散,大電流など)な電子ビーム生成を実現する。

具体的にはエネルギー分散:<0.2 eV,最大引き出し電流:pA~mAが可能。これにより顕微鏡用電子線源から加工用電子線源までをカバーすることができる。さらに,レーザーのビーム形状やパルスを変えることで様々な種類の電子ビームを発生する。

同社では透過型電子顕微鏡の電子線源として,世界初となるデスクトップサイズ(高さ500 mm,重量70 kg)の電子ビーム生成システムを開発した。ミリ秒以下のパルスビームによりサンプルにダメージを与えずに撮像できるほか,高速で運動する試料に対してもブレの無い観察が可能になるという。

この製品により同社は最初の受注を獲得しており,今後は電子顕微鏡以外にも半導体デバイス産業や金属3Dプリンターなどへ展開し「広範囲の分野でブレイクスルーを引き起こしたい」(取締役 経営企画担当 田村逸郎氏)としている。◇

(月刊OPTRONICS 2017年1月号掲載)