■光CTでより深部を探る
近赤外線スペクトロスコピー(NIRS)などの光トポグラフィと呼ばれる技術のように,ヘモグロビンの赤外線吸収を利用した血流量の計測や脳機能イメージングが実用化されているが,皮膚や骨など脳以外の人体組織の影響を受けやすく,選択的なヘモグロビン濃度変化の定量計測ができないといった問題があった。
これに対し,生体組織における光の吸収・散乱の分布を画像化する光CTが開発されているが,散乱光を用いるため,臨床で用いるには画質が低い。
浜松医科大学教授の星詳子氏らのグループは,より高解像度な光CT画像を得るため独自の画像再構成アルゴリズムを考案した。これは複雑な輻射輸送方程式に代わり,順問題と逆問題を繰り返すというもので,頸部を再現した3Dモデルによる数値実験では吸収係数の異なる2種類のガンをはっきりと検出することができた。
この技術を光トポグラフィと同様,光を用いて非侵襲的に内部組織を可視化する光コヒーレンストモグラフィ(OCT)と比べた場合,OCTが深度1〜2 mmの断層像しか得られないのに対し,この技術は数10 mmの深さの変化を検出できる。また,光音響イメージングでは頭蓋骨に覆われる脳の計測ができず,吸収係数の定量的計測も難しいが,こうした点もクリアしている。
研究グループでは,この技術をより確立するため,マルチチャンネルの時間分解計測システムと,頸部に応用するためのファイバーホルダを開発するなどの準備を進めており,今後はアルゴリズムのブラッシュアップなどを通じて実用化を目指したいとしている。
■より初期のがんを発見するグルコース
がん細胞の中にはがん細胞とも正常細胞とも判断がつきにくい微妙な状態の細胞がある。現在,その判断は病理医の主観によって行なわれているため,がんを見落としたり,疑わしい細胞に対し過剰な医療を行なってしまったりする可能性が憂慮されている。
これに対し,弘前大学准教授の山田勝也氏らは,微妙な状態のがんを客観的に診断できる診断薬を開発した。
現在,がん細胞がブドウ糖(グルコース)を多量に食べることを利用し,緑色の蛍光基を導入したグルコースである2-NBGDが,がん診断に使われている。しかしグルコースは他の細胞も重要な栄養として摂取するため,得られる像はコントラストが低く,悪性度の評価も苦手といった弱点があった。
山田氏らは,開発した2-NBGDの鏡像異性体(キラリティ)グルコースである2-NBDLGを,がん細胞が選択的に取り込むことを発見した。通常の細胞は2-NBDLGは取り込まないことから,バックグラウンドノイズの低い高コントラストな蛍光像を得ることができる。
ただし,通常の細胞でも細胞壁に損傷などがあると2-NBDLGを取り込む可能性があるため,がん細胞と識別するために赤い蛍光標識を一緒に使う方法を提案している。この赤色の蛍光標識はサイズが大きく,細胞壁に損傷がない限りは通常の細胞が取り込むことはないという。これを利用し,赤と緑が両方取り込まれた細胞は損傷のある細胞としてがん細胞と見分けることができる。
この診断薬が実用化されれば,内視鏡検査時に振りかけるだけでがんの診断ができるようになる。実際に人のがん細胞を用いた実験も進めており,今後は安全性の確立と生きた細胞や組織の蛍光を計測する装置技術や自動化の開発が実用化のカギになるとしている。