子供の頃,サングラスをかけている人は悪い人なのだと,かなり強固に信じていた。もしもサングラスをかけたおじさんに「坊や」などと声をかけられたら,一目散に逃げるのだと心に決めていた。(実際そんな場面は無かったが)。それだけではなく,サングラスは普通の人をも悪人に変えてしまう魔力を持っているに違いない,などという妄想すら持っていたのである。
小学校に時に東京から札幌に引っ越し,家族で初めてスキー用品を揃えた時に,父はゴーグルではなくサングラスを買った。普段から生真面目だった父がサングラスを初めてかける時には,父親があちら側の世界の人になってしまうのではないかと密かに心を痛めたのであるが,ゲレンデの父が突如,不気味な笑みを見せることもなく,いつものように真面目でかっこいい父親のままだった。この時を境に,僕にとってサングラスは悪のアイテムから格好いいアイテムに変わったのだった。
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