子供の頃は目の前に広がる景色が僕の世界の全てだった。空一面を暗い雲が覆ったりしたときには,晴れ間というものがこの世から駆逐され,二度と戻ってこないのではないかと心配したものである。そんな心配で心が絶望的に真っ暗になってしまう頃,雲の切れ間から夕陽の光がすっと差し込んだりした時の喜びは格別だった。
暗闇に差し込む光といえば,僕には決して忘れられないシーンがある。それは10年程前のことだ。そのとき僕は友人と二人で丹沢の,とある沢を遡上していた。そこは初心者向けの沢で,慣れている人ならばロープの確保も無しに登れてしまう簡単なルートだった。ただ,その日は雨で濡れていて,沢筋をびっしり覆う苔でつるつるに滑ってしまうため,多少難易度の高いコンディションとなっていた。僕たちは慎重に歩を進めていた。
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