1. 概要
量子革命は第二段階に入った。第一段階では,トランジスタ,半導体,レーザー,衛星ナビゲーション技術などの新技術がもたらされたが,現在では,通信,計算,シミュレーション,あるいはセンシングや計測などのタスクに量子力学の法則を利用することができるようになった。第二段階では,量子デバイスの優れた性能により,古典的なデバイスに代わる新しい量子デバイスが登場することが期待される。
2. はじめに
1952年,量子物理学者のエルヴィン・シュレーディンガーはこう言った。「我々は,たった一つの電子,原子,(小さな)分子で実験することはない。しかし,思考実験では,そうであると仮定することがある。」1)私たちの世界は変わり,ここ数十年の間に研究所では,単一の原子を閉じ込め,基底状態まで冷却し,絡め取り,その状態を他の閉じ込められた原子にテレポートさせることができるようになった。これと並行して,超伝導体の研究も,単一量子状態の研究のためのエキサイティングなプラットフォームを提供している。量子技術を基礎研究から広く利用可能な標準技術に発展させるための強い推進力がある。量子通信では,量子鍵配送による絶対的なセキュリティの確保,世界最高性能のスーパーコンピューターが数十年を要する計算を数秒で行う量子シミュレーターやコンピューター,量子技術による高度な医療画像技術など,量子技術の応用は,まだ夢にも思っていないようなことが起こる可能性を秘めている。量子技術の大きな可能性を認識した世界市場は,各国政府が数十億ドルを投じて量子技術を推進するようになった。
この分野のパイオニアであるメンローシステムズのようなフォトニクス企業は,こうした斬新な課題に対して商業的なソリューションを提供している。これまで大規模な研究施設でしか利用できなかった同社の堅牢な技術は,数多くの研究所やOEMインテグレーターが恩恵を受けている。フォトニクスと量子物理学の間には強い結びつきがある。量子シミュレーションや量子計算では,冷たい原子やイオンを量子ビットとして使用し,その動作には複雑なデバイスが必要だ。世界中の研究室が,この種の実験に光周波数コムや超安定レーザーを使用している。量子通信では,近赤外領域のフェムト秒レーザーパルスを正確に同期させて生成される自発パラメトリックダウンコンバージョンによる単一光子に依存することが多い。量子センシングや量子計測では,周波数コムやレーザー技術に最高の安定性と精度が要求される。今回は,国際単位系(SI)における現在の秒の定義にまもなく取って代わるであろう,光原子時計への応用に焦点を当てる。