1.2.2 可視光領域とその近傍
可視域は光工学の中心であり,多彩な装置が開発されてきた領域である。視覚情報は人間が得る情報の80〜90%を占めると言われる。可視域が他の領域と決定的に違うのは,この領域だけがディスプレイなど表示に関する応用を持っていることである。表題からは太陽光スペクトルの議論から入るべきところであるが,長波長側から説明してきた流れから先ずは固体レーザに続き可視光域でも重要な位置を占める半導体光源から始めることとする。半導体光源には未だ近赤外域で述べることができなかった部分が残っているので,先ずはそこから話を進める。
(a)レーザ光源とLED
半導体光源はLEDから始まった。LEDは現在では紫外から赤外までの広い領域をカバーし,レンジは280 nmから2000 nmくらい(中心は365〜950 nm)まで及ぶ。基本的には波長幅が50 nmくらい(構成物質により値は変わる)の単波長,無偏光のインコヒーレント光源である。1960年代に赤や黄緑色が開発されたが,青色LEDは技術障壁が高く難航した。これが窒化ガリウム(GaN)の高品質単結晶技術などで解決され,赤﨑勇,天野浩,中村修二の各氏が2014年度のノーベル賞を受賞したことは記憶に新しい。
近赤外LEDでの馴染み深い応用例はリモコン用光源で波長は940〜950 nmである。イメージセンサの感度が未だある波長なので,リモコンの点滅は暗所でスマホにより確認することができる。
LEDは可視光域の照明光源として省エネ化,長寿命のメリットを活かし白熱電球を急速に置き換えている。置き換えになるには,単色光源から白色光源への機能アップが求められる。
白色LEDには大きく分けて図8に示す3種類の方式がある1)。
(a)の青色LEDとその補色に当たる黄色を発光する蛍光体を用いる方式が高効率で現在の主流である。600 nm以上の赤の光が弱かったり,励起する450 nm付近が強くていったん500 nm付近で強度が下がるなどスペクトル分布が一様でない。このため演色性に課題があり,改良が試みられている。(b)は紫(近紫外)LEDを励起に用い青,緑,赤の蛍光体で自然光に近い分布を実現する方式である。可視域の分布が他に比べ一様なので演色性に優れ,美術館展示,医療などに応用されている。全体の効率が課題である。(c)は3色のLEDを混合して白色を得るものである。照明光として用いると550〜600 nmのスペクトルの欠けで不自然に見えることがあるため,光を直接見せるディスプレイに用いられる。
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