非冷却遠赤外線カメラ市場の現状と今後のシナリオ

3. 非冷却遠赤外線カメラ市場の現状

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前述の定義をベースに,現状の民間向けの非冷却遠赤外線カメラ市場規模(WW)を見ると,出荷数量ベースで30万台弱,金額ベースで23億ドル程度の市場規模で横ばい推移していることがわかる。用途別(2012年時点数量ベース)では保守・保全が全体の57%,車載が18%,その後を防災・セキュリティー,研究開発・試験,医療と続く。

また,民間向けの日本の同市場規模はわずか7000台弱程度に留まっている。同市場における主力メーカーは軍需向けにも遠赤外線カメラを供給しているケースが大半を占め,コアは軍需向けであった。しかし,各国軍事費削減の流れの中で,欧米の大手主力メーカーが民間向けへの市場喚起策を強化する動きが2012年あたりから表面化してきた。それは「低価格なローエンド品の市場投入策」である。

同市場でトップを走るフリアーシステムズ社は,2012年6月にハンディータイプのサーモグラフィーカメラ「i3」を10万円を切る価格帯(発売当初時点)で市場投入。フルークコーポレーションもビジュアル放射温度計「VT02」を同様の低価格帯で販売開始するなど,従来ハンディータイプであっても50万円以上が当然とされていた業界に衝撃が走った。この動きが真っ先に響いたのは新興国だった。

2012年後半あたりからブラジル,インド,ロシア,中国などの新興国を中心に,分電盤診断など簡易的な設備診断向けに市場が拡大。サーモグラフィーユーザーの裾野は,これまでの欧米中心の図式から新興国まで広がりが出てきた。ユーザーマインドを勘案すれば,こうして広がったローエンド品ユーザーであっても先々はもっと鮮明に診断したい,などの思いからミドルレンジ品ユーザーにシフトしていく可能性も十分に秘めている。こうした動きが市場を刺激し,2012年までは2%弱に留まっていた対前年比成長率は2013〜2015年にかけては同10%前後の上昇に転じるとTSRでは見通している。

ただし,この低価格戦略に日本が追随するシナリオは得策とは言いがたい。新興国へのチャネル不足や,すでに実需が動き出している状況での10万円台サーモグラフィーカメラ供給に追随するには時期遅れと言えよう。

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