パスカルの世界

鴫原正義

夏は台風のシーズンでもあります。過去30年の統計で日本への接近数は7~9月の三月で全体の8割を占めるようです。台風情報で気になるのがヘクトパスカル(hPa)の数値で,この単位は,哲学者・思想家・数学者・物理学者等々の肩書きの多いブレーズ・パスカル(1623~1662)に由来します。

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パスカルはフランス中部に位置するクレルモンで生まれ,小さい頃から数学などでの天才振りを発揮しています。行政官として徴税の仕事をしていた父は,教育熱心で哲学や自然科学の知識を持ち,一家がパリに移った後も家庭での英才教育をしながら,知人友人を含む科学者達を自宅に集めてサロン的会合を開催していました。パスカルはそのような環境の中で天性的才能を刺激しながら育っていくのです。

更に,父を亡くした1651年に妹が修道院に入るのですが,その頃から“人間”に関する思考を深めています。宗教などに関する持論を展開してゆくのですが,1650年代後半に体調を崩し1662年に39歳の若さで生涯を閉じています。そして後の1670年に,病床で書き続けていた未公開原稿やメモを中心に整理された『パンセ(pens仔:思考の意)』が出版されるのです。「パンセ」の世界にも興味がありますが,以下に発明家・科学者としての側面を覗いて見ましょう。

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