近赤外光硬化性樹脂を用いた自己形成光導波路によるシリコンフォトニクス自動接続

2. 一光子重合開始システムを用いた近赤外光励起自己形成光導波路

近赤外光で光重合を引き起こすためには,化学物質が本来光を吸収しない波長領域の光に感光するように分光増感を行う必要がある。近赤外光で重合活性種を発生するための分光増感系では,近赤外光領域に吸収をもつ増感色素,および開始剤が用いられる。まずこの増感色素が近赤外光を吸収し励起状態となる。その励起状態と開始剤の間で電子移動反応が起こり,活性種が生成する。

図1 各近赤外吸収色素の吸収スペクトル(アセトン溶液中,CIR-960:30 mg/L,IR1112:15 mg/L,IR1114:1.4 mg/L,IR1421:15 mg/L,NIR949C:51 mg/L)。
図1 各近赤外吸収色素の吸収スペクトル(アセトン溶液中,CIR-960:30 mg/L,IR1112:15 mg/L,IR1114:1.4 mg/L,IR1421:15 mg/L,NIR949C:51 mg/L)。

近赤外自己形成光導波路材料は,アクリルモノマーに近赤外吸収色素とボレート系開始剤,スルホニウム系開始剤を混合して調製した。いくつかの近赤外吸収色素を用いて自己形成光導波路の作製を行った。近赤外吸収色素としては,日本カーリット㈱製 CIR-960,Adam, Gates & Company, LLC製 IR1112,IR1114,IR1421,QCR Solutions Corp製NIR949Cを使用した。図1に用いた近赤外吸収色素の吸収スペクトルを示す。自己形成光導波路コアの作製には,光通信波長帯で使用されるコア径8.2 μmのSMFを用いた。

図2 自己形成光導波路の形成プロセス
図2 自己形成光導波路の形成プロセス

図2に自己形成光導波路コアの作製手順を示す。ガラス基板上にカバーガラス(厚み:0.13 mm〜0.17 mm)を重ねて隙間を作り,隙間にSMFの先端を挿入する。自己形成光導波路材料を毛細管現象により隙間に充填する。次に,高圧水銀灯を用いて溶液全体にUV照射を行うことにより(プレUV照射プロセス),自己形成光導波路材料を部分重合させ粘度を上昇させることで,作製される自己形成光導波路コアの屈曲を防止した12)。次に,近赤外レーザーを,SMFを介して自己形成光導波路材料に照射することで,自己形成光導波路コアを作製した。自己形成光導波路コアの作製は,プレUV照射条件を固定し,近赤外レーザーの出力のみを変化させて行った。プレUV照射条件は,UVパワー密度を23 mW/cm2,照射時間を20秒とした。また,近赤外レーザーには連続発振のものを用い,照射条件は,波長1550 nm,出力100〜500 μW,照射時間30秒とした。

作製した自己形成光導波路コアの顕微鏡画像を図3に示す。各色素を用いた材料系において,波長1550 nmレーザーの出力が500 μW以上で自己形成光導波路コアの作製に成功した。

図3 SMFを用いて作製した自己形成光導波路コアの顕微鏡画像。
図3 SMFを用いて作製した自己形成光導波路コアの顕微鏡画像。

3. シリコンフォトニクスデバイスへの応用展開

光通信波長帯光で作製可能な近赤外自己形成光導波路は,波長1100 nm以下の光を伝搬しないシリコン光導波路デバイスにも適用可能である。近赤外自己形成光導波路によって,スポットサイズ変換器(SSC:Spot size converter)付きシリコン導波路とSMF間の自己形成光導波路接続を実現した。シリコン光導波路のコア断面サイズは220 nm×450 nmと微小なため,シリコン光導波路の入出射端においてSSCによってモードフィールド径(MFD:Mode-field diameter)を約3〜4 μmに拡大している。シリコンフォトニクスチップはガラス基板上に固定し,一方のSSCには光の入出射用に細径ファイバ(UHNA3)を実装した。細径ファイバはSSCと同程度のMFDをもつ。また,もう一方のSSCには自己形成光導波路接続のため,SMFを間隙80 μm空けて実装した。SSCとSMF間に自己形成光導波路材料を充填し,双方向から波長1310 nmのレーザー光を照射して自己形成導波路接続を行った。

自己形成光導波路接続を行ったものの顕微鏡画像を図4に示す。本稿では,シリコン導波路とSMF間の自己形成光導波路接続を2チャネルで行った。1チャネルずつ自己形成光導波路接続を行ったが,各チャネルから同時に近赤外レーザーを照射することで,マルチチャネルを一括接続することも可能であり,近赤外レーザーの照射のみという簡単なプロセスで接続することができる。

図4 シリコン光導波路とSMF間の自己形成光導波路接続。
図4 シリコン光導波路とSMF間の自己形成光導波路接続。

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