1. はじめに
タケはイネ科タケ亜科の常緑性の多年生植物で,垂直にぐんぐんと伸び,地球上の多くの地域で生育している1)。一般的なイネ科植物とは幅,大きさ,高さ,節間への枝張りが大きく異なる2, 3)。竹は,炭素(C)を貯蔵・捕捉する顕著な能力と高い窒素(N2)固定能力を持っており,生物学者にとって非常に魅力的な存在となっている4)。人類は何千年も前から竹を利用しており,日本では軽くて加工がしやすいことから,籠やザル,花器といった日用品や玩具としてはもちろん,茶道や華道の道具,笛や尺八といった楽器,竹刀や弓といった武道具,さらには作物の収穫に用いる背負い籠など,農業でも漁業でも用途に合わせて竹を使っていた。頑丈で用途の広い木質茎は,建築材料としても使用され,日本の伝統行事である正月に飾る門松にも使われている5, 6)。
そうした竹が,現代では生活様式の変化やプラスチックなどの代替製品,安価な輸入竹製品の増加,また生産者の高齢化などにより,高価な工芸品を除いては,日常で竹製品を見かけることが少なくなってきた。それにもかかわらず竹の繁殖力は非常に強いため,20メートルを超える高さまで成長することによる日照障害,大量の竹の葉の落下・堆積,広葉樹林の浸食などが解決すべき喫緊の課題として露呈してきた。使われない竹林は管理不足で周囲の森林や里山へと侵食し,さらに整備をする担い手も高齢化してくると荒れた竹林は邪魔者扱いされるようになってしまった。山は本来,ブナやナラ,クヌギといった広葉樹が深く根を張ることで山全体を守り,また良質なミネラルを含む水が蓄えられる7)。竹の根はせいぜい50 cmくらいの表層にしか地下茎を張らないため,山の保水力が低下する。そして竹がぐんぐん成長することで,太陽光が周囲の雑木に届かなくなり枯らしてしまう。こうして雑木林は竹藪に変わっていく。これは,里山全体の植生が変わるだけでなく,根の浅い竹の地下茎によって地盤が弱くなることで,土砂崩れなどのリスクが発生する。また,人里近い放置竹林がイノシシなど野生動物の住処になると,畑が荒らされるという鳥獣被害も助長しているのが現状である。竹は根が強く,コンクリートさえも突き破る成長力を持つため一刻も早い対策が必要とされているが,放置竹林は増加するばかりで竹林拡大の対策が進んでいない。
竹はタケノコなど食材や建材としてはもちろん,竹チップとして土壌改良剤にも使われている。その消臭効果や抗菌効果などから8, 9),医療用ガーゼや衣類など,竹の活用の可能性は広がっている。しかし,各地に広がる竹林に対して使われる量はとても限定的で,現在の竹の使い道はあまりない。本研究では竹の新たな利活用を探ることとした。既に,孟宗竹(Phyllostachys Pubescens)の抽出液は,抗酸化作用や抗菌作用など多くの有効性が確認されており10〜12),メラニンの生成に関わるチロシナーゼの遺伝子発現や合成抑制作用13),シワやたるみなどを引き起こす皮膚の老化を抑制する作用14, 15)など,日焼けした後の皮膚再生に有用なことが報告されている。しかしながら,そもそも竹抽出液に紫外線吸収力があれば日焼けそのものを防ぐことができるのではないかと考え,竹抽出液の紫外線吸収力について評価した。
紫外線は,波長の違いからUV-A(320−400 nm),UV-B(280−320 nm),UV-C(200−280 nm)に分類されているが,UV-Cはオゾン層に吸収されるため,地表に届く紫外線はUV-AとUV-Bである(図1)16)。UV-Aは,紫外線の中でも長い波長を持ち,地表に届く紫外線の9割を占めている。また,皮膚などの人体に対する影響はUV-Bに比べて少ないが,雲や窓ガラスを透過する性質を持っているため,曇りの日や室内にいる場合でも警戒が必要となる17)。一方UV-Bは,UV-Aより波長が短く,地表に届く紫外線の1割程度を占めている。UV-Aと比べて人体への影響は大きいが,UV-Aのような透過性は無く,日傘や遮光カーテンなどで対策が可能となる18)。
紫外線から肌を守る為に日焼け止めに使用されている成分は,主に化学物質を使用しており,皮膚上で化学反応を起こして熱として放出させる紫外線吸収剤と,紫外線を反射し肌へのダメージを防ぐ紫外線散乱剤の2つがある19)。この紫外線吸収剤や紫外線散乱剤のデメリットとして,化学物質を使用するため肌負担が強く,安全性が懸念されている。一方,肌負担が少なく,安全性が認められている紫外線吸収剤や紫外線散乱剤はSPF値やPA値が低くなりやすいというデメリットもある。特に,紫外線散乱剤として利用される金属には酸化亜鉛と酸化チタンの2種があり,それぞれ金属アレルギーを持つ人は反応してしまう可能性がある20)。