4. 「正しい」角度を得るために
上記の手法は「高分解能」測定法の確立を目的としていたが,精密計測にはもう一つの方向として「正しい」測定が必要である。たとえば1°回転運動させようとしたときに,それが本当に1°であるか?という疑問が生じる。これは例えばロータリーエンコーダーなどの回転センサーにおいては重要な問題になる。この問題を解決する手法は2つある。1つは正しいとされる校正された角度センサーによって我々のシステムを校正することである。もう1つは装置を原理的に校正する手法を生み出すことである。当然,研究としての価値は後者にあり,我々は校正法の創出に挑戦している。
まず問題を整理する。本手法では,回折格子が必要である。この回折格子ピッチはAFMなどによって校正が可能であるが,測定現場での実際の回折格子ピッチは補正を行う必要がある。また,レンズのアライメントやファイバー設置治具の加工精度,取り付け誤差などのために,検出器であるファイバーにどの回折角の光が入射するかも未知である。そこで,これらの問題を解決するための手法を考案した。概略を図7に示す2)。ポイントは3つである。
・問題を数理的に解く。
以上から,少し簡略化した数式を書くと図7中の数式のようになる。
ここで未知数は入射角α,設置角(入射ビームと検出される回折ビームのなす角度)γ+1,γ–1,回折格子ピッチg,回転角度δ1,δ2の6つであり,方程式は6つとなるので,未知数がすべて解かれることとなる。上記が校正法の概略である。このように原理的に装置自身で校正を行うことを自己校正あるいは自律校正,英語ではself-calibrationと呼ぶ。
5. むすび
上記で筆者が中心となって開発してきた回転運動計測法や自律校正法について述べた。高分解能とともに正しい計測をすることの必要性を感じていただけていれば幸いである。2021年度にデュアルコム分光法の研究を開始してから,ようやく研究が軌道に乗りつつある。今後は,本手法で確立したデュアルコム分光法を応用して,さらなる応用研究に発展させていくつもりである。現在は光周波数コムを応用した光演算器の開発に取り組んでいる。この研究を,長さや角度の測定に適用しようと奮闘している最中である。続報に注目していただきたい。
参考文献
1)Yuan-Liu Chen, et al., “Laser autocollimation based on an optical frequency comb for absolute angular position measurement” Precision Engineering Vol. 54 (2018) 284-293
2)松隈 啓,井口颯太,高 偉「光学式角度測定装置用校正装置,光学式角度測定装置向け校正方法」PCT/JP2024/16268
■Ultra-Precision Measurement and Calibration Method for Motion of Object with Optical Frequency Combs
■Hiraku Matsukuma
■Associate Professor, Department of Finemechanics, Graduate School of Engineering, Tohoku University