ミニインタビュー
小野先生に聞く
この研究を医療機器に応用して人命を救いたい
─この研究を始めたきっかけを教えてください。
(小野)私は脳波や心電図など生体の電気活動の計測が専門でしたが,シンガポールのNanyang Technological Universityの先生にラボを見せてもらい,血流や代謝の信号を光で測ることの面白さに気づいたのが研究を始めたきっかけです。
その後,同じ大学の運動生理学の先生に,光で筋肉の血流が取れるという話をしたらわざわざ見に来てくださって,汗をかきながら「これはすごい」と(笑)。工学の研究者にとって普通のことでも,違った分野の先生にとっては非常に面白いようでした。
─この研究の面白さを教えてください。
(小野)オプティクスが研究のメインのテーマではなかったのですが,自分の作ったツールを中心に研究の世界が広がっていき,光学のセンサーを作る研究の魅力に気づきました。
─研究している中で苦労していることはありますか。
(小野)今は円安に苦労しています。例えばレーザーなどの光学機器は輸入製品が多く,為替の影響を強く受けるため見積もりを取るのが恐ろしいです。出来合いのレーザーを買わずに素子から作ろうともしていますが,今のリソースだと難しいのが苦労ですね。
─この研究がどのように応用されることを期待していますか。
(小野)体内の血流や酸素の代謝を測るセンサーを今作っています。救急救命やICUで人の命を救えるはずなので,ぜひ生きているうちに,医療機器にしたいという野望はあります。もう一つは,超高齢化社会に備えて,気軽に自分の体を見ることができるコンシューマ向けの装置も考えています。
─若手研究者が置かれている状況をどう見ていますか。
(小野)私の研究室にもドクターは取ったものの,苦労している人がいるので,状況はわかっているつもりです。研究職に就くと義務は沢山ありますが,自分の裁量で好きな研究ができるというのは楽しいことです。ポイントは,その研究にはまっているかどうかだと思います。もしお金を稼ぐためとか,教授になりたいといったことが目的だったら,一般的な就職の方がよいかもしれません。
─さらに若手や学生に向けてメッセージをお願いします。
(小野)大学の研究室に所属されている方なら,好きな研究を思う存分深掘りできるという機会を大事にしてもらいたいです。研究者を目指したい方は,研究職の求人サイトであるJREC-INを参照してどんな仕事があるかを見ておくのと,学会に行って自分の研究室ではない人とたくさん友達になり,ネットワークを作ることが大事かなと思います。
(聞き手:梅村舞香/杉島孝弘)
オノ ユミエ
所属:明治大学 理工学部 専任教授
略歴:2004年早稲田大学大学院理工学研究科電気工学専攻修了,博士(工学)。2003年日本学術振興会特別研究員,2006年神奈川歯科大学歯学部生体機能学講座(生理学)講師等を経て2011年より明治大学理工学部電気電子生命学科専任准教授,2017年専任教授,現在に至る。脳・生体機能計測の医工学応用に関する研究に従事。日本生体医工学会理事,日本神経科学学会,北米神経科学学会の会員。
趣味:子供(男の子)と遊ぶこと〈5歳児の発想は面白い!最近は扉の折り戸に夢中なので機械工学科の先生に聞いて,蝶番を買いDIYした〉
(月刊OPTRONICS 2024年9月号)