創出した関心領域選択的ラマン分光分析技術の動作実証の結果を図3に示す。試料には,ガラス基板上に配置した2種類のポリマー(ポリエチレン:PE,ポリジメチルシロキサン:PDMS)樹脂の細線を用いた(図3(a))。2種類のポリマー樹脂の細線のみを関心領域と想定しレーザー照射し(図3(b)),発生したラマン散乱光を記録した(図3(c))。記録されたラマンスペクトル(図3(d))を文献のラマンスペクトル11, 12)と比較した結果,測定スペクトルは,ポリエチレン樹脂またはポリジメチルシロキサン樹脂特有のラマンバンドを有していることを確認した。さらに,ポリエチレン樹脂とポリジメチルシロキサン樹脂それぞれに特徴的な2848 cm–1と2973 cm–1のラマンバンドを利用し,試料面におけるラマンスペクトルの空間分布を再構成した結果,2種類のポリマー細線の空間分布に対応したラマン画像が構築されたことを確認した。
手術ナビゲーションにおける関心領域選択的ラマン分光分析技術の利用可能性を検討するために,生体組織のラマンスペクトル測定と測定スペクトルに基づく組織判別を実施した。試料にはラットの末梢神経,筋組織,線維性結合組織,脂肪組織を用いた。図4(a)に末梢神経測定の結果を示す。視野内の末梢神経を関心領域と想定し,組織上の任意の5点を選択的にレーザー照射し,ラマンスペクトルを測定したところ,各レーザー照射位置の測定ラマンスペクトルは,文献に示されている末梢神経のラマンスペクトルと同様に,2850 cm–1,2890 cm–1,2930 cm–1に特徴的なバンドを示した。また,末梢神経,筋組織,線維性結合組織,脂肪組織それぞれから測定したラマンスペクトルを組織種ごとに平均したところ,平均スペクトルは文献13)と同様の特徴を示し,互いに明確に異なることを確認した(図4(b))。この結果を踏まえて末梢神経,筋組織,線維性結合組織,脂肪組織から測定した合計1030個のラマンスペクトルにより機械学習モデルを構築し判別分析を行い,末梢神経,筋組織,線維性結合組織,脂肪組織をそれぞれラマンスペクトルに基づいて分類できる可能性を見出した(図4(c))。