熱画像解析による土壌有機物量計測技術の開発

5. 実用化への課題

本技術はまだ基礎開発段階であるが実用化にあたっては,計測時間の短縮,光源の低容量化が課題と考えている。現状では100秒以上の温度変化のデータを用いて解析を行っているが,実用化に当たっては数秒間程度で計測が完了する事が望まれる。また加熱光源に1 kWのハロゲンランプを2個使用しているが,現場へ持ち込める程度の電源容量の光源での計測を可能にする必要がある。現状では短時間のデータでは外乱による細かな時間変動成分の影響で,温度変化率を見誤る場合が多くある。また加熱強度が弱く,温度上昇が小さい場合にも同様の問題が生じる。解析アルゴリズムを最適化することによってこの問題を解消し,低出力の光源でかつ短時間での計測を可能にしたい。

6. おわりに

本稿では,土壌を光で加熱した際の温度変化をサーモグラフィーで撮影することで土壌有機物の含有割合を定量的に計測する技術について紹介した。実用化されれば特殊な技能や作業を要さず,誰でも簡単かつ迅速に土壌中の有機物量を定量的に評価する事が可能となる。複数個所の計測も容易であることから,農場内の土壌有機物量のバラつきの評価が可能で,近年スマート農業として注目されるデータ駆動型の営農管理に活かされる事が期待できる。更に,土壌中の炭素貯留量の評価技術として活用される事も想定され,農地による炭素貯留の取り組みへの貢献も期待される。また本技術は本質的には,内部が密な固体と内部に空隙を有する固体とを識別する技術である。農業用途にとどまらず工業分野にも役立てられる可能性があると考えており,もし有益な用途があればご教示いただけると幸甚である。

参考文献
1)食料・農業・農村政策審議会企画部会地球環境小委員会,林政審議会施策部会地球環境小委員会,水産政策審議会企画部会地球環境小委員会第13回合同会議,農林水産分野における温暖化対策農林水産分野における温暖化対策「農地による炭素貯留について」2012年2月14日,https://www.env.go.jp/council/06earth/y060-104/900422937.pdf
2)Japanese Society of Pedology, “A Handbook for Soil Survey Revised edition” (2021)
3)土壌環境分析法編集委員会,「土壌環境分析法」,博友社 (1997)
4)村田智吉,「土壌環境調査・分析法入門」,講談社 (2018)
5)加賀田翔,佐野修司,特願 2023-181770,2023年10月23日出願
6)K. Kagata, H. Yokota, Y. Yoshida, S. Sano, “Research on measurement technique for soil organic matter content using active thermography”, Proceedings of the 44th Japan Symposium on Thermophysical Properties (2023)
7)T. Kobari, J. Okajima, A. Komiya, S. Maruyama, “Evaluation of Radiative Heat Transfer in High-Temperature Porous Insulation Materials by Using Diffusion Approximation”, Netsu Bussei 28, 4, 179-184 (2014)
8)梅村雅之,福江純,野村英子,「宇宙物理学の基礎第3巻 輻射輸送と輻射流体力学」,日本評論社 (2016)
9)Harald Reiss, “Radiative Transfer in Nontransparent, Dispersed Media”, Springer (1988)

■Development of Measurement Technology for Soil Organic Matter using Thermal Image Analysis
■Kakeru Kagata
■OSAKA INSUTITUE OF TECNHNOLOGY, Department of Environmental Engineering, Assistant Professor

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