4. 実証実験
4.1 土壌有機物の混合割合計測結果
実証実験として土壌有機物が混合した2種類の土壌試料を用いた計測結果を紹介する。1つはゴルフ場グリーン芝より採取した川砂に木炭を混合した試料(図4(a)),もう一方は黄色土下層土による造成土に,稲わらを混合した試料(図4(b))である。木炭を混合した土壌は,色相が異なるので目視でも判別しやすいが,稲わらを混合した試料は,土と稲わらの色相が同じであるため目視では判別しづらい。それぞれ混合割合(体積比)を変化させて計測を行った。光源にはハロゲンランプヒーター(有限会社フィンテック製,1 kW,色温度3050 K)を2個用いた。照射強度を一定とするため,ランプに通電してから照射強度が安定したのを確認した後,試料への照射を開始した。
試料の上方約700 mmの位置からサーモグラフィー(日本アビオニクス㈱製R500EX Pro,測定波長範囲8~14 μm,画像解像度水平640画素×垂直480画素)で試料表面の温度変化を熱画像として記録した。1秒間隔で記録した熱画像を時系列の二次元温度データに変換した上で,データ解析ソフト(MathWorks社,MATLAB)を用いて,全ての画素の時間の平方根に対する温度変化を求めた。t1=1 s,t2=16 s,t3=64 s,t4=121 sとして温度上昇の傾きの変化率Cを求め,C<1となる画素を土壌有機物として識別した。各試料の土壌有機物の混合割合に対する,本技術で計測した含有割合の結果を図5に示す。どちらの試料の場合にも,実際の体積比に対して計測値は直線的な相関関係を示しており,定量的に土壌有機物の含有量を計測する事が可能である事が示された。また混合物の色相が同じである稲わらを混合した試料でも,混合割合を計測する事ができており,色の影響を受けない識別方法であることが確認された。
4.2 水分の影響
実際の農場では,土壌が濡れている場合が想定される。本技術は内部に空隙を有する多孔質体特有の温度変化を利用して識別を行うが,空隙が水分で満たされた場合は土壌有機物として識別できない可能性が考えられた。そこで土壌有機物の含水率を変化させて,温度上昇の傾向に変化が生じるか実験的検証を行った。試料には図4(a)に示す木炭と同じ物を用いた。1日間水に浸して水を浸透させた状態を含水率100%とし,自然乾燥させながら逐次,光加熱時の温度の時間変化を観測した。図6に異なる含水率における温度の時間変化の比較結果を示す。図に示す含水率は,計測時と乾燥状態の重量の差を,最大含水状態と乾燥状態の重量の差で除した値である。含水率49%以上の場合は時間の平方根に対して直線的な温度変化を示した。それに対して含水率が24%以下の場合は含水率0%の場合と同様に,温度変化は徐々に緩やかになる傾向を示した。含水率が24%の時の変化率Cの値は0.61であり,1より十分低いため土壌有機物として識別可能である。土壌が“湿っている”程度であれば本技術が適用可能であることが確認された。